Molecule of the Week (39)

 

3つの十字型は対イオンのヘキサフルオロリン酸イオン。

 炭素−炭素二重結合を自在に組み替える「オレフィンメタセシス」という反応が、この10年ほど有機化学の世界を席巻しつつあります。その応用範囲は広く、複雑な天然物の合成から生化学、高分子の重合反応など「メタセシスがあって初めてできるようになった」事柄は少なくありません。

 超分子化学の分野でもメタセシスは広く応用されています。例えば環状アミン(黄色)と二重結合を持ったクラウンエーテル(青)を混ぜてメタセシスを行うと、マジックリングのように2つの環が組み合わさりカテナンができる例が報告されています(収率95%)。これはもちろん手品ですり抜けたわけではなく、二重結合がいったん切れて開き、もう一方の環を取り込んで巻き直しているわけです。

 冒頭に掲げた分子は北京大学の陳らのグループが合成したものです。クローバーのような分子(緑)に3本の糸(紫)を通し、これらをメタセシスでつなぎ合わせるという手法で作られています。分子機械の設計に向けて大きな進歩――などとそれらしい解説を書くことはできるでしょうが、とにかくこれだけ美しく複雑な分子が手軽に合成できるようになったことに、筆者などは単純に感動を覚えます。

 メタセシスの実用的な触媒を開発したGrubbs教授、カテナンなど超分子化学の大家であるStoddart教授は共にノーベル化学賞の最有力候補に挙げられています。今年あたりそろそろ――と筆者は勝手に思っているのですが、さてどうなるでしょうか?

(追記)2005年度ノーベル化学賞は、Grubbs教授を含む3名に授与されました。詳細はこちら

 Org. Lett. 2005, 7, 2129 E. N. Guidry et al.

 J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 13158 X. -Z. Zhu et al.

 関連リンク:分子の知恵の輪・カテナン 分子の知恵の輪カテナン(2)

 

 今週の分子バックナンバー

 有機化学美術館トップへ