☆糖の話(3)

 前項で見たように、糖は互いにつながりあって大きな分子になることができます。しかし何も糖どうしでしかつながれないわけではなく、他の分子とも結合して様々な働きをしています。こうした分子を配糖体といい、先に挙げた甘味料のステビオシドなどもその一つです。今回はこうした配糖体の働きを取り上げてみましょう。

 医薬や生理活性物質にも数多くの配糖体が見られます。代表的な抗生物質であるエリスロマイシンやアベルメクチン、抗ガン剤であるブレオマイシンなどがその例です。糖は水酸基を多く含んでいるため水に溶けやすい性質があり、薬の水溶性・毒性の改善に役立っていると言われます。

 

上左 erythromycin A 上右 avermectin 下 bleomycin A(糖の部分を薄緑色で示す)

 ガン細胞を殺す作用のあるランドマイシンは6つの糖がずらりとくっついていますが、糖の数が減るごとに効き目も弱くなっていくそうです。ランドマイシンは右下の本体(灰色部分)がDNAのすき間に入り込んでその働きを止めることでガン細胞の増殖を防ぎます。おそらくこの糖鎖にはDNAにからみつき、本体の働きをアシストする役目があるのでしょう(以前に紹介したカリチェアマイシンの糖鎖は、やはりDNAを認識する役割を負っています)。

landomycin

 水虫薬として使われるホロトキシンは、ステロイド骨格にやはり6つもの糖がまるで艦隊のように引き連れられた分子です。ステロイド骨格は脂肪になじみがよく、糖は水になじみやすいため、この分子は水と油を一緒にしたような構造ということになります。水虫菌などの細胞は脂質でできた膜(細胞膜)で包まれており、水分の多い外界と細胞の中身を仕切っています。ステロイド部分は脂質となじむのでここに入り込みますが、水と混じりやすい糖を引き連れてくるためここから水が入り込み、膜が破れてしまいます。つまりホロトキシンは水と油のコンビネーションで、水虫菌の細胞膜を破壊する薬剤ということになります。われわれにとってなじみ深い化合物である糖とステロイドがこのように結びついて、水虫の治療薬として使われているというのはちょっと意外な事実です。

holotoxin

 糖が切り離されることによって初めて機能を発揮する化合物もあります。コーヒーの香り成分はもともとコーヒー豆の中では糖がついたままの形(クロロゲン酸)になっており、この状態では香りがしません。これをローストすると糖が切り離され、真の香り成分であるカフェー酸が遊離してあの香ばしい香りが引きだされます。

またバニラの香り成分バニリンも同様に糖がついており、こちらはしばらく豆を発酵させることで糖(グルコース)が外れて香りが感じられるようになります。

コーヒー(左)とバニラ(右)の香り成分。緑色部分は切り離される糖。

 もっと凝った仕掛けもあります。青梅の果肉には下に示すアミグダリンという成分と、糖を切り離す働きのあるグルコシダーゼという酵素とが含まれています。青梅を食べると胃の中で両者が混じり合うことになります。

 グルコシダーゼによって糖が切り離されると、シアンヒドリン(右)と呼ばれる化合物になります。シアンヒドリンはさらに胃酸などによって分解され、猛毒として有名な青酸イオン(紫と青)が発生します。これが青梅の毒性の原因です。要するにアミグダリンを銃に例えれば、糖は安全装置、青酸イオンは弾丸に相当するでしょう。動物と違ってその場から逃げることも戦うこともできない植物は、その身を守るべく時として驚くべき仕掛けを編み出すことがあります。

 最後にちょっとした余談。糖の名前には「グルコース」「スクロース」「フルクトース」などのように語尾に「-ose」がつく決まりになっています。新しい糖が発見されると当然名前をつけなければいけませんが、1978年に報告されたある糖には「rednose(赤鼻)という妙な命名がされました。ルドルフォマイシンという新しい抗生物質にくっついていた糖(下図赤枠内)がそれです。

ルドルフォマイシン。赤い枠の中が「rednose」。

 何のことかというと、「ルドルフ」という名前はサンタクロースのそりを引く「赤鼻のトナカイ」として、西洋ではなじみの深い名前なのです。ルドルフ(ォマイシン)の先端についているから「rednose」というシャレなのでした。こうした命名は論文の審査の段階で却下されてしまうことが多いのですが、この場合はクリスマスにちなんで大目に見てもらえたようです(この論文が受理されたのは1978年12月21日でした)。

 糖にまつわる話題はまだまだあります。次回は(栄養源以外として)生物の体内で働く糖の役回りを見ていきましょう。

 

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