☆糖の話(1)

 糖といえば甘味のもととしてもっとも身近な分子の一つです。しかし糖の役割はそれだけではなく、エネルギー源、生体の建築材料、薬、さらに生体内でのコミュニケーションとその働きは極めて多岐に及びます。今回は糖の果たすいろいろな役割について見ていきましょう。

 糖と一口に言っても多くの種類がありますが、共通するのは水酸基(水素と酸素、水素は白で、酸素は赤で表した)をたくさん持っていることです。水酸基には甘味があるのです。

 糖の中でももっとも基本的なものがブドウ糖(グルコース)です。ブドウ糖は体内でゆっくりと燃やされ、体を動かすための大切なエネルギー源になります。後に述べる通り植物の体を作る重要な構成成分でもあり、このため地球上に一番たくさんある有機分子はこのブドウ糖であるといわれます。

glucose

 我々の一番身近な糖である砂糖(スクロース)はこのブドウ糖と果糖(フルクトース)がくっついたものです。体内に入ると砂糖はこの2つの糖に分解され、さらにそれぞれが徐々に燃やされてエネルギーに転換されます。果糖は果実やハチミツに含まれる糖で、快い甘味があります。ブドウ糖より吸収がよく、エネルギーへの転換効率も高いため非常食に向いていると考えられた時期もありましたが、摂り過ぎは体調を崩す原因となります。

fructose(左)とsucrose(右)

 乳糖(ラクトース)はブドウ糖とガラクトースがくっついたもので、その名の通り牛乳などに多く含まれます。東洋人の7割から9割はこの乳糖を処理する酵素を持たないため、乳糖は腸で細菌によって分解されてガスを放出し、お腹を下す原因となります。この体質のため乳製品は東洋で発達しなかったのか、乳製品を食べないからこうした体質になったのか、ニワトリとタマゴのようなもので答えははっきりしません。

lactose

 何度も述べた通り糖は重要なエネルギー源です。とはいえ糖をエネルギー源とするのは何も人間だけではなく、例えば虫歯菌なども糖を分解することによって生きています(この分解のときついでに酸を出し、これが歯を溶かして虫歯が発生します)。またエネルギー(つまりカロリー)を摂りすぎれば肥満や糖尿病などの原因にもなります。糖分を摂らずに生きていければそれでいいのですが、なかなかそうはいかないことはみなさんご存知の通りです。人間の体はエネルギー源である甘味を求めるように作られており、いわば甘いものを食べたいというのは人類の根源的な欲求です。糖分の摂りすぎなどという事態は、つい最近社会が豊かに(あるいはぜいたくに)なって初めて起きてきたことですから、頭ではわかっていても体はなかなか糖分を避けようとはしてくれません。

 パラチノース、マルチトールといった甘味料はこうした要請に応えて登場しました。パラチノースは砂糖(スクロース)を酵素で処理して2つの糖のつながり方を変えたもの、マルチトールは麦芽糖(マルトース)の一方の糖が還元された形のものです。いずれも体内・虫歯菌によって消化されにくく、このためカロリーの摂りすぎや虫歯の原因になりにくいのです。

palatinose(左)とmaltitol(右)

 こうした甘味料は人によって体質に合わず、乳糖などと同じように腹を下す原因になることがあります。こうしたことからこれらの甘味料を批判する声もありますが、糖尿病患者などにとってはどうしても必要な化合物であることも事実です。

 最近注目されている甘味料にステビアやキシリトールなどがあります。前者は南米産のキク科の植物の葉から抽出される甘味料で、砂糖の300倍以上の甘さがあります。グルコースを含んでいますが、甘味が強いため相対的にカロリーを減らすことができます。

stevioside(左)、xylitol(右)

 キシリトールは糖アルコールと呼ばれる仲間に属し、炭素が5つの珍しい糖類です。虫歯の原因となる細菌は砂糖などと間違えてキシリトールを食べますが、消化して栄養にすることができず、そのうちに疲弊して死んでしまいます。このため菓子メーカーなどが虫歯を防ぐ甘味料として注目しているのはご存知の通りです。


 今回取り上げた糖類は、一見しただけではどこが違うのかわからないくらいお互いそっくりです。こうした多種多様な糖類を生体はきちんと区別し、場面に応じて巧妙に使い分けています。次回は糖類がたくさんつながった、多糖類について紹介していきましょう。

 

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