Molecule of the Week (58)

 

モーター(黄緑色)つきナノカー

 ナノプシャンナノカーなど興味深いナノテク世界を切り開いているTour教授の研究室から、また新作が発表されました。今回のニューモデルは、なんと光のエネルギーを受けて自走する「モーター付きナノカー」です。

 今回組み込まれたモーターは、オランダのFeringaらによって開発されたもので、回転軸となるのは中心にある二重結合部分です。以前述べた通り二重結合はふつう回転できないのですが、光を当てると結合の1本が切れ、自由に回転できるようになります。普通の分子ではどちら向きにでも回ることができ、回転方向を制御することができませんが、Feringaの設計したこの分子ではメチル基の引っかかりにより一方向にのみにしか回転できないようになっています(実際の理屈はもう少し複雑ですが、興味のある方はNature 437, 1337 (2005)あたりをご覧下さい)。

Feringaの分子モーター

 今回Tourらはこの分子モーターをシャシーに組み込み、ナノカーの推進力として用いることを考えました。光を当てると上図黄緑色部分がくるくると回り、地面(?)を引っかいてマシンを矢印の向きに前進させるという仕掛けです。以前のナノカーではタイヤ部分にはフラーレンが用いられていましたが、フラーレンはせっかくの光エネルギーを吸収してしまうので、今回は炭素とホウ素でできた「カルボラン」(上図黄色)という構造を用いているということです。

 今のところナノカー2号について発表されているのは分子の設計だけで、走行性能の検証などはまだこれからのようです。それにしてもTour教授の発想のユニークさ、分子設計の巧妙さには毎度のことながら舌を巻きます。すでにTour教授はさらに頑丈な車体を持つ「ナノトラック」、その場で回転できる「ナノ旋回機」なども開発しています。さらなる進化、例えばアクセル、ブレーキ、ギア、荷物の積み下ろし機能などをつけるにはどうすればいいか?分子模型をいじりながら考えてみるだけでも、これはなかなか楽しいテーマといえそうです。この楽しみこそが、新しい「モノ」を作り出せる化学というジャンルに許された、大きな特権なのではないだろうか、と筆者は思っています。

 Org. Lett. (2006) 8, 1713 J.-F. Morin et al.

 J. Am. Chem. Soc. (2006), 128, 4854 Y. Shirai et al.


(追記 2008.2.25)

 ナノカーシリーズにまたもやニューモデルが登場したようです。今度はなんとシャクトリムシのように地面を這って進む「ナノワーム」だそうです。

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 光を当てると中央のジアゾ結合がトランス型からシス型へ変化し、体全体を伸び縮みさせながら進んでいくプランだそうです。まだ溶液中でシス・トランスの異性化が起こることを確認しただけの段階で、実際に這って歩くかどうかはこれからのようですが、それにしても何という楽しい発想をする先生なのでしょうか。
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol703027h

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