Molecule of the Week (43)

 

足回りに4つのフラーレンを配した「ナノカー」。一部置換基は省略。

 アメリカ・ライス大学のTour教授らのグループから、ユニークな化合物が報告されたので紹介しましょう。4つのフラーレンをタイヤとして自在に駆け回るナノサイズの車、名付けて「ナノカー」です。

ナノカーの「シャシー」はベンゼン環と三重結合をベースに組み立てられており、変形しにくい剛直な造りです。車軸は曲がりはしませんが自由に回転できますから、フラーレンの車輪が転がってあたりを走り回るにはぴったりの構造です。

 ナノカーのサイズは髪の毛の2万分の1ほどでしかありませんが、実際に金箔表面を走る様子も電子顕微鏡で観察されています。探針でナノカーを直接動かすことにも成功しており、横には動きにくいが縦にはスムーズに動くといいますから、表面を滑っているのではなくちゃんとタイヤが回って走っているという証拠と考えられます。また電場をかけることによって方向を変えることなども可能といいますから、単に形だけの模倣にとどまらない立派な「車」といえるでしょう。

 記憶力のよい方なら、ライス大学、ナノテク、Tour教授というキーワードにはどこかで聞き覚えがあるかもしれません。このTour教授、かの世にもユニークな人間型分子「ナノプシャン」の生みの親でもあるのです。そういえばナノカーとナノプシャンはいずれもベンゼン環と三重結合をベースにした骨格であり、構造的にも共通点があります。あるいはナノプシャンの合成は、ナノカー合成に向けた「習作」という意味合いもあったのでしょうか。

ナノプシャン分子。ナノカーの構造と見比べてください。

 それにしても遊び心に富んだユニークな研究です。すでにTour研究室では6輪バージョンのナノカー、荷物を載せて運べる「ナノトラック」の合成にも成功しているとのことです。何らかの化学エネルギーや光エネルギーを動力として走る車や、特定の場所に必要な分子を送り届ける「ナノ宅配便」、様々な設計のナノカーがスピードを競う「ナノF1」などなど、いくらでも楽しいアイディアが湧いてきそうです。 「ナノテク」という言葉はイメージばかりが先行してなんだかよくわからない分野という印象がありますが、こういった楽しくて夢を感じさせる研究がたくさん出てくるといいな、と個人的には思う次第です。

 Nano Lett. ASAP T.Sasaki et al.

 ライス大学プレスリリース

 

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