Molecule of the Week (47)

 

カーボンナノホーンの模型

 フラーレンカーボンナノチューブといった炭素系の新素材、いわゆる「ナノカーボン」の素晴らしい可能性については何度も取り上げている通りです。化学、工学、生物学などへの応用が精力的に展開されていますが、最近ではナノカーボンの特性を医療に生かそうという試みも進められています。

 カーボンナノホーンと呼ばれる、円錐型をしたナノカーボンの一種があります。普通のナノチューブと違って底が開いているため他の物質を吸着して取り込みやすいという特質があり、例えば水素を取り込ませて燃料電池の「燃料タンク」に使った試作品がすでに完成しています。

 最近NECの研究チームは、このナノホーンに抗ガン剤の「シスプラチン」を取り込ませ、試験管で培養したガン細胞に加えるという実験を行いました。ガン細胞はこのサイズの物質を取り込みやすいため、細胞内でシスプラチンが徐々に放出されて、見事にガン細胞を死滅させることができたのだそうです。いわばガン細胞だけを狙い撃ちする、極細の注射針ができたとも言えるでしょう。

抗ガン剤シスプラチン

 通常、抗ガン剤はガン細胞も正常の細胞も見境なく攻撃してしまうため、ガン組織だけでなく体へも大きなダメージを与えてしまいます。この方法はガン細胞だけを集中的に叩く可能性を拓いたもので、シスプラチンだけでなく他の薬剤へも応用が期待できそうです。

 他に、カーボンナノチューブに一定の波長のレーザー光線を当てると爆発する性質(これは2002年に発見されました)を生かし、ガン細胞だけを爆破する研究も行われています。あるいは抗ガン剤でダメージを与えておき、さらにナノチューブを爆破してガン細胞を叩く2段階攻撃などといったことも可能になるのかも知れません。ナノカーボン類のユニークな性質の応用が、こんなところまで及ぶとは面白いことです。

 とはいえこれらの研究はごく初期の段階であり、安全な形でガン治療に用いられるようになるまでには、越えなければならないハードルがまだまだ山のようにあるというのが現実です。細胞に取り込まれやすいという性質は、一歩間違うと非常に危険を伴うことでもあります。フラーレンやナノチューブ類は非常に特殊な形の分子であるため思わぬ作用があることも考えられ、人体への応用は慎重を期するべきなのかもしれません。

 NECプレスリリース・カーボンナノホーンへの抗癌剤内包に成功

 

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