Molecule of the Week (37)

 

セルヴィマイシン。4環性の骨格に6つの糖を従える。

 以前にも述べたように、MRSAに代表される「多剤耐性菌」は現在非常に大きな問題となっています。抗生物質の乱用により、それに耐えて生き延びる強い菌がはびこり、今まで通用していた抗菌剤が効かなくなってきているのです。最後の切り札として使われてきた最強の抗生物質・バンコマイシンにも2002年になってついに耐性菌が出現し、医療の現場に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいところです。

 当然このバンコマイシン耐性菌に対して効果のある新薬を探す研究は世界中で行われていますが、このほど久々に有望なニューフェイスが報告されました。ドイツのライプニッツ研究所のメンバーが発見した「セルヴィマイシン」(上図)がそれです。コアとなる骨格(緑色部分)は今までにも似たようなタイプが知られていますが、酸素が3つしかない変わった糖(普通は6つ)が上下に合計6つもついているのが特徴です。

 といってもセルヴィマイシンに関しては安全性・有効性など確認しなくてはならないことがまだ山ほどあり、この化合物が新薬として実際に用いられるかどうかはまだ未知数です。とはいえ非常に有望な化合物であることは確かであり、今後しばらくこの化合物に関する研究が学会誌をにぎわすことは間違いなさそうです。

 セルヴィマイシンが発見されたのは、イタリアのCervi洞窟に住んでいた放線菌からでした。この洞窟は新石器時代(約5000年前)に描かれた壁画が残っていることで知られていますが、近代に至るまで文明人が近づくことのなかった洞窟だったそうです。こうした洞窟では外界から切り離された極めて特徴的な生態系ができあがっており、次々と新種の菌が見つかっているそうです。

 近年、細菌の生産する化合物はすでに取り尽くされ、新しいものはもはやほとんど残っていないともいわれます。こうした洞窟細菌の研究は、行き詰まり気味に見える醗酵生産物の研究において、思わぬニューフロンティアとなるのかも知れません。

 関連項目:抗生物質の危機(1) 抗生物質の危機(2)

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