Molecule of the Week (34)

 

最短の炭素−炭素単結合。水色・黄緑が炭素、紫がケイ素。

 炭素−炭素の単結合の長さは、平均すると1.54オングストローム程度とされます。二重結合や三重結合は強く結びついている分これより短くなりますし、同じ単結合でも周辺の条件によって長さはいろいろ変わってくることが知られています。

 このほど筑波大学の関口らから、この炭素−炭素単結合の距離がこれまで最短である化合物が報告されました。上のような正四面体が2つつながった構造の分子で、黄色で示した中央部の結合が1.436オングストロームと「非環状など、ひずみのかかっていない結合としては今までで最短」とのことです。

 この結合が短いのは、両側の炭素原子の結合が60度にまで変形しているためs電子の性質を帯びる(いってみれば二重結合に近い性質を持つようになる)ためと説明されています。合成には大変な苦労があったようで、2つの4面体ユニットを結合させる段階の収率はさまざまな検討を行ったにも関わらずわずか3%であったということです。なお関口教授はケイ素−ケイ素の三重結合を初めて作り出した人でもあります。

 反対に最長の炭素−炭素結合はどういう化合物か?こちらもレコードホルダーは日本人で、愛媛大・大阪市立大の連合チームによって1999年に報告がなされたものです。

青が炭素、黄緑が塩素。

 黄色で示した結合が1.734オングストロームだそうで、最短の結合の約1.2倍の長さがあることになります。これは4員環というひずみプラス、両端についている大きな置換基同士の反発のために距離が開いてしまったものと考えられます。

 この記録は付帯条件によって変動しそうなので、筆者の調べ切れていないケースがいろいろとあると思われます。詳しい方がおられたらご教示いただければ幸いです。

 

 関連リンク:炭素のトライアングル

 Angew. Chem. Int. Ed. EarlyView A. Sekiguchi et al

 J. Org. Chem. 1999, 64, 3102 F. Toda et al.


(追記)

 この項目を書いた直後、北大の河合英敏博士より最長の炭素−炭素結合についてご教示をいただきました。つい最近鈴木孝紀教授と河合博士の研究室で、今までの記録を大幅に超える1.77オングストロームの結合を持つ化合物が合成されたとのことです。下の分子の黄色で示した結合がそれで、やや不安定であるものの低温で構造解析を行うことによって結合距離測定に成功したものです。緊張感のある美しい造形をご鑑賞下さい。

 こうした研究は単に数字の比べっこというのにとどまらず、炭素−炭素結合がどこまで安定に存在しうるかを追求するという大きな意味があります。有機化学の基本である炭素−炭素結合の極限を追求するという基礎研究の分野においても、日本の貢献が非常に大きいことを示す例といえそうです。

 Crystal Growth & Design, in press H. Kawai et al.

 

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