Molecule of the Week (6)

(ピンク色がケイ素、黄緑が炭素)

 前回「ヒ素など重原子は多重結合を作りにくい」ということを書きましたが、最近筑波大学の関口らにより、初めてケイ素同士の三重結合を持つ化合物が合成されました(上図中央部)。不安定な結合を守るため、両端に巨大な置換基をつけて他の分子の攻撃からシールドしています。

 この分子は、R-Br2Si-SiBr2-Rという四臭化物をカリウムで還元して得られました。炭素同士の三重結合は一直線に並びますが、ケイ素の場合はご覧の通りジグザグに折れ曲がった構造をとります。これは以前から理論計算で予言されていたところでした。

 ケイ素同士の二重結合は、すでに1981年に合成されています。またちょっと意外なことに、周期表でケイ素の下にあるゲルマニウム・スズ・鉛などの三重結合は、数年前に一足早く合成されていました。今回の研究で、ようやく炭素族の三重結合が全て出揃ったことになります。

 ケイ素は4本の結合の腕を持つなど基本的には炭素に似ていますが、こうした研究を見ると実際の性質はずいぶん違っていることを再認識させられます。ケイ素原子を基本とした生物というのがよくSFに出てきますが、ケイ素は炭素ほど多彩かつ安定な構造を作れませんので、実際にはケイ素生物は存在できないとされます。今この世界があるのは、炭素という元素の、どこまでも長くつながって安定な化合物を作れるという「極めて特殊な性質」に支えられているといえそうです。

 Science 305, 1755 (2004) A. Sekiguchi et al.

 

 関口研究室

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