Molecule of the Week (44)

 

紅葉の原因の赤色色素、アントシアニンの一種。

 紅葉の季節となりました。「名所」と呼ばれる場所に足を運んだ、あるいはこれから足を運ぶ計画を立てている方も多いのではないでしょうか。

 紅葉という現象を化学の眼で見ると、葉に含まれる2種類の色素の勢力バランスの変化ということになります。通常の植物の葉の緑色を作りだしているのはクロロフィル、通称葉緑素と呼ばれる化合物です。この化合物は中心にマグネシウム原子を含んでおり、これが光エネルギーを受け取るアンテナの役割を果たして、極めて複雑な過程である「光合成」が始まります。植物は光合成によって必要な分子を作り出し、動物はこれを食べて生きているわけですから、地球を緑の惑星、生命の惑星たらしめているのはこのクロロフィル分子だと言っても過言ではないでしょう。

クロロフィル。中央の黄色はマグネシウム原子。側鎖は省略。

 さてそれだけ重要なクロロフィルですが、冬になって日光が弱まれば当然光合成の効率も落ちることになります。植物としては、手間ひまをかけてクロロフィルを作ってもどうせエネルギーの生産ができないのなら、そんなものを作るのをやめてしまえ、さらに維持のコストがかからないようすっぱりと葉っぱなど落としてしまえ、ということになるわけです。このあたり、効率ということに関して生命というものは実にシビアな一面を見せます。

 カエデ、ツタなど一部の植物は、ただ葉を落とすのではなく、その前にアントシアニン類(トップの画像参照)という色素を作り出し、葉は美しい赤色に染まります。これが秋に我々の目を楽しませる紅葉の正体ですが、ではなぜ効率に厳しいはずの植物がこんなものをわざわざ作り始めるのでしょうか?実ははっきりしたことはまだわかっていないのが現状のようです。

 ひとつ面白い説として、「アントシアニンは植物の日焼け止めである」という仮説があります。アントシアニン類はポリフェノールの一種に分類され、活性酸素と反応してこれを消去する働きがあります。日光を吸収するクロロフィルがなくなると光の作用で活性酸素ができやすくなるため、これをつぶすためにアントシアニンを作るのだというものです。筋書きとしてはなかなか面白いですが反論の余地もありそうで、完全なところの解明はまだこれからでしょう。

 

 ただ近年、全国的に紅葉の鮮やかさが落ちているのではないかという話があります。原因は地球温暖化により、夜間の冷え込みが厳しくなくなったことにあるといわれます。アントシアニン色素の原料となるグルコース(上の図の緑色部分)は昼間に生産されて、夜の間にアントシアニンへと変換されます。しかし夜の気温が下がらないとグルコースは葉で消費されてしまい、色素が合成されないのです。実際、全国をドライブしている筆者の眼から見ても、目の覚めるような美しい紅葉を見る機会は格段に減ったように感じます。

 地球温暖化の影響は様々なところに及んでいます。ここ数年だけを考えても桜の開花時期は早まり、積雪量は減り、台風などの災害は深刻化しています。美しく染まることなく、ただ赤茶けて枯れるだけの山々は、人類に何かを警告している気がするのは筆者だけでしょうか。

 

 関連項目:糖の話(3)・配糖体あれこれ

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