Molecule of the Week (36)

 

水色が炭素(C)、青が窒素(N)、ピンクがホウ素(B)。

 炭素と炭素が極めてしっかりした結合を作る――これが生命からプラスチックに至るまで、身の回りのあらゆる化合物を作り出している基本です。では炭素−炭素結合に匹敵するほど丈夫な結合は、他には存在しないのでしょうか?

 実はホウ素−窒素の結合がそれに相当します。ホウ素の電子数は5個、窒素の電子数は7個ですから、互いに電子を補い合うことで電子6個の炭素同士と同じような強い結合を作ることができるわけです。例えばホウ素・窒素3個ずつから成るボラゾール(上右)は、炭素6個のベンゼン(上左)によく似た性質を示し、「無機ベンゼン」とも呼ばれます。

 ベンゼンの6角形を蜂の巣状にどこまでもつないだのが「グラファイト」ですが、窒素とホウ素も同じ構造を作ることができます。この「六方晶窒化ホウ素」はB-BやN-Nが隣り合わないよう、交互につながったネットワークを持ち、潤滑剤や絶縁体として使われます。

グラファイト(上左)と六方晶窒化ホウ素(上右)。 

 グラファイトに高温高圧をかけるとダイヤモンドになりますが、六方晶窒化ホウ素もまた同様の条件でBとNが交互につながったダイヤモンド構造に変化します。この構造にも「立方晶窒化ホウ素」という舌をかみそうな名前が付いていますが、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つため工業素材として重要な存在です。

 ところで前者の「六方晶窒化ホウ素」の微粉末には最近身近な用途が開発され、日常的に見かけるようになりました。手触りの滑らかさと、光を散乱する性質を生かし、口紅やファンデーションに光沢を与えるというものです。CMなどで「真珠光沢」をうたっている化粧品は、たいていこの窒化ホウ素が含まれているといわれます。窒化ホウ素は化学反応をほとんど起こさないため体内に入っても変化を受けず、このため多少飲み込んだところで毒性の心配もないわけです。

炭素ではダイヤモンドがキラキラと輝き、グラファイトは地味な黒い粉末ですが、窒化ホウ素の場合グラファイト構造を持つ方が輝かしい素材であるのは面白いことです。このように炭素と窒化ホウ素では、同じ構造であってもそれなりに違う性質が現れてくるものです。

 炭素の他の同素体であるフラーレンやナノチューブについても、窒化ホウ素で同じような構造が合成されています。これらはまだ大量生産ができていないため研究は十分に進んでいませんが、炭素版とはまた違った性質を示すことがわかっており、今後の応用展開が期待されています。炭素から成るフラーレンやナノチューブが今熱い注目を浴びていますが、窒素とホウ素のコンビ、またそれらと炭素のハイブリッド材料もまた、21世紀の暮らしを変えていく新素材としてさらに研究が進められていくことと思われます。

 関連項目:亀の甲をつなげると

 

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