Molecule of the Week (29)

カーボンナノチューブのペプチド巻き

 各方面で研究が進むカーボンナノチューブですが、応用への泣き所のひとつとして、各種溶媒に非常に溶けにくいことが挙げられます。ナノチューブはもともと水などにはなじみにくい構造である上に、それ自身で束になりやすい性質を持ち、ばらばらにして溶媒になじませるのに非常に大きなエネルギーを要するからです。たいていの化学反応は溶媒に溶かした状態で行いますから、これは化学者にとっては非常に不都合なことです。

 そこでナノチューブに他の分子を巻きつけ、「ラッピング」して溶媒和させるというアイディアが出されました。これまでにDNAやアミロース(でんぷん)などをナノチューブにらせん状に巻きつけ、溶液中に分散させることに成功した報告があります。

 今回Dieckmannらは下のようなペプチドを設計し、これをナノチューブに巻きつかせることを考えました。両端にはSH基が導入されており、酸化剤を加えるとS-S結合ができて全体が大きな環になる仕掛けです。

設計されたペプチド。右側の環が切れたところがSH基。

 このペプチドとカーボンナノチューブを混ぜると、ファンデルワールス力という力によってペプチドが表面に吸い寄せられます。ここに酸化剤を加えてやると、「がま口」がカチリと閉まるように環ができ、ナノチューブに巻きついて固定されることになります。しかも環同士は水素結合で前後に並びますので、結果として上の絵のような「ナノチューブのペプチド巻き」ができるわけです。ペプチドを作るアミノ酸は水溶性のものが選ばれていますから、これによって表面を覆われたナノチューブは水に溶けるようになります。またここに還元剤を作用させてS-S結合を切断すれば、ナノチューブだけを回収することも容易です。

 カーボンナノチューブはできた時点では直径も性質(ねじれ具合に由来する電導性など)もまちまちで、均一なものを選り分けるのが難しいというところにひとつの難点がありました。この手法では長さの違うペプチドを使うことによって、一定の直径のナノチューブだけを選択的に溶かし出すことに成功しています。これは今までのらせん状に巻きつくDNAやアミロースにはできない芸当で、今後の応用・展開が非常に楽しみな研究といえそうです。

 J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 9512 A. Ortiz-Acevedo et al.

 

 関連項目:世界を変えるか・驚異の新素材カーボンナノチューブ(1) (2)

 今週の分子バックナンバー

 有機化学美術館トップへ