Molecule of the Week (17)

 

 病院でもらう医薬の処方箋にはたいていの場合「併用禁忌」、つまり薬の「飲み合わせ」に関する注意書きが添えられています。違う種類の薬を同時に飲むことにより、単独では現れない強い副作用が出ることがあるのです。

この「併用禁忌」のリストの中に、他の種類の医薬に混じって「グレープフルーツジュース」が挙げられていることがあります。みかんでもリンゴでもなく、なぜグレープフルーツだけが危険とされるのでしょうか?

 体内に食品ではない化合物が取り込まれると、肝臓に送り込まれて「代謝酵素」によって処理が行われます。代謝酵素にも多くの種類がありますが、主要なのは化合物に酸素原子を取りつける「CYP」と呼ばれる酵素です。水酸基をつけることによって水溶性を高め、体外に流し出そうという一種の解毒作用です。医薬も本来体にとっては「異物」であり、やはりCYPによる処理を受けます。

 グレープフルーツジュースが危険と言われるのは、果皮に含まれるナリンジン(上図)、クエルセチンなどの「フラボノイド配糖体」という化合物群(とその代謝物)がこのCYPに取りつき、その作用を止めてしまうからと考えられています。CYPが働けなくなると薬を代謝することができなくなり、体内での濃度が必要以上に上がって危険な症状を引き起こすことがあるというわけです(ただしナリンジンだけの作用では説明できないとする説もあり、完全なところはまだわかっていないようです)。

 とはいえこれらフラボノイドは果実の風味に必須の化合物ですし、単独では脂肪燃焼作用や健胃作用があるとする人もおり、決して体に悪い化合物ではありません。組み合わせ次第で薬が毒となるわけで、医薬とは、そして人体とはなんとも難しいものだと改めて思わされる話です。

 

 関連リンク:糖の話(3)〜配糖体あれこれ〜

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