Molecule of the Week (13)

Zooxanthellatoxin A。立体化学は一部を除き未解明。

 12員環以上の大きなラクトン環を持つ天然物を「マクロライド」と総称します。マクロライド類には強い生理活性を持つものが多く、抗生物質エリスロマイシン(14員環)、免疫抑制剤FK506(23員環)、抗ガン剤アンフォテリシン(36員環)など多くの医薬が見出されています。

ではこれまで発見されたマクロライドのうち、最大の環を持つものは何か――。1995年に構造決定された、zooxanthellatoxin A(上図)の62員環というのがどうやら最大のようです。ある種の海藻から発見された神経毒で、分子量2872という巨大分子です。その他マクロライド以外の天然物では「古細菌」の膜脂質から得られた72員環分子があり、柿沼らによって全合成も達成されています。

 人工分子ではどうかといえば、まずメチレン単位(-CH2-)のみから成る単純な環としてはSchillらが合成した288員環という記録があります。またシクロファンでは、以前にも紹介した304員環のものがあります。

 環状ポリマーにはもっとうわ手がいます。6-ナイロンはε-アミノカプロン酸がたくさんつながった高分子((-NH-(CH2)5CO-)n)ですが、この環状40〜100量体がRotheらによって合成されています。100量体は700員環ということになりますから、きちんと分離して性質が調べられた分子としてはこれが現在のレコードホルダーのようです。ただこれらの数字は、単純に記録だけを狙って合成するなら、破ることはそれほど難しくないようにも思えます。

 とはいえ、自然界にはこれらよりはるかに巨大な環状分子が存在しています。DNAの二重らせんが輪を作った、「プラスミド」と呼ばれる特殊な遺伝子がそれです。プラスミドは数千〜数万塩基対程度の大きさが普通ですが、大腸菌の作るプラスミドには470万塩基対から成るものが発見されていますので、原子の数で言えばこれはだいたい2800万員環(!)ということになります。こんな巨大なリングを制御して作るのは、今の人類には全く不可能な技術です。単純な環状分子一つをとってみても、自然の巧みさを改めて感じずにはいられません。

 

※情報のソースが少々古いので、もっと大きな記録をご存知の方は作者までご一報を。

Zooxanthellatoxin A : J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 550  Nakamura et al.


(追記)

 この項目を書いた後、「Grubbsらが開環メタセシス重合と呼ばれる方法によって、分子量約20万の環状ポリエチレンを合成している」との情報をいただきました。これは全く単一の分子というわけではありませんが、ほぼ14000員環に相当します。環状ポリマーは普通の方法で作ったポリエチレンとは違った性質を示し、幅広い応用が期待されています。彼らが開発したメタセシス反応は複雑な天然物の全合成からこうしたポリマー合成に至るまで幅広く応用がなされており、有機合成の戦略を根本的に変えつつある素晴らしい反応です。

 ご教示をいただきました、産業技術総合研究所の吉田勝博士に感謝いたします。

Science 297, 2041 (2002) C. W. Bielawski et al.


(追記2)

 巨大マクロライド、10年ぶりに記録が更新されたようです。新しくレコードホルダーの座に就いたのはzooxanthellamide C5という化合物で、名古屋大の小鹿らが構造決定に成功したものです。

 今回単離された最大のものは66員環だそうです。上のzooxanthellatoxinと見比べてみてください。

J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 10406 K. Onodera et al.


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