☆デンドリマー〜分子の珊瑚礁〜(1)

 「デンドリマー」と呼ばれる、まるで木の枝か珊瑚礁のような形をした分子が近年大きな注目を集めています。今回はこの独特の形状を持つ分子について紹介していきましょう。少々難しい言葉も出てきますが、専門でない方も細かい理屈は抜きにしてデンドリマー分子の美しさを鑑賞してみて下さい。

 プラスチックなど一般に「高分子」と呼ばれる化合物は、同じ単位がずらずらと直線あるいは網目状につながったものです。これに対しデンドリマーは次々と規則的に枝分かれを繰り返しながら放射状に広がり、樹木のような形をとります。この枝分かれの具合は、数学でいうフラクタル図形などと同じように「世代1」「世代2」といったように表します(正確な意味でのフラクタル図形とはちょっと違いますが)。ちなみにデンドリマーという言葉は、ギリシャ語の「dendron」(樹木)に由来します。

世代1〜4のデンドリマー。分岐を増やしながら広がっていく。

 上の絵ではわかりやすく平面的に構造を示していますが、実際には大きなデンドリマーは球状になり、表面に数多くの官能基(様々な特徴を持つ原子団)を高密度で持つことになります。表面や中身をどのような分子で作るか、どれくらいのサイズにするかはそれをデザインする化学者次第で、様々な面白い性質を持つデンドリマーが合成されています。

 例えば、窒素原子(青)は金属原子にくっつきやすいので、上の図のようなデンドリマーは金属イオンを大量に、しかも強く抱え込むことが知られています。しかし、デンドリマーの内部空間には金属以外にも様々な分子が取り込まれることが知られており、これを使ったいろいろな応用が考えられています。

例えばアドリアマイシンなどの抗癌剤は水に溶けにくいのが難点ですが、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーと呼ばれるタイプの化合物にこれを取り込ませ、水に溶けやすい形にして患部に送り届ければ(ドラッグデリバリー)、この難点をカバーできます。下の絵の、外側にたくさん伸びているポリエチレングリコール鎖(紅白のひも状の部分、略称PEG)は水になじみがよく、これで水溶性を稼いでいるわけです。なんだかイソギンチャクの触手に隠れるクマノミのようなイメージです。

PAMAMデンドリマーに取り込まれるアドリアマイシン(緑色)

 フラーレンは医薬としても様々な可能性が考えられていますが、水にほとんど溶けないのが大きな障害になっています。そこで水溶性のデンドリマーにくっつけてやり、必要なところでデンドリマーから切り離して標的を攻撃させるような方法も考えられています。エイズや癌といった難病治療の切り札として、フラーレンとデンドリマーのコンビが活躍する日も遠くないかもしれません(詳しくはこちらをどうぞ)。

フラロデンドリマー。緑色がフラーレン部分。

 ホウ素中性子捕捉療法という癌の治療法にも、デンドリマーが大きな役割を果たそうとしています。この方法では多量のホウ素原子を患部近くに送り込んでやる必要がありますが、多くの分岐を持つデンドリマーはこの目的にぴったりです。さらに癌細胞を認識する抗体、水溶性を上げるための長いPEG鎖、分子の所在を確認するためのダンシル基(緑色)を組み込み、1分子に多くの機能を持たせることに成功しています。

紫色のかたまりがホウ素クラスター、緑色が蛍光を発するダンシル基、右側の鎖が水溶性を上げるためのポリエチレングリコール鎖(抗体部分は省略)

 これらデンドリマーは体内に残存すると毒性などの心配もありますが、徐々に体内の酵素などによって、生体に害のないグリセリンやシュウ酸などに分解される「バイオデンドリマー」というものも提案されています。これらは化学物質に敏感な、角膜などの損傷を修復するのに使えると考えられています。

バイオデンドリマー。シュウ酸とグリセリンとのエステル結合で出来上がっている。

 今回は医学・生物学方面への応用が中心でしたが、その他にもいろいろな使い道が考えられています。こちらは次回に譲ります。

 

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