国道292号線を行く〜その2〜

 というわけで山道を登っているうち、車は濃霧の中、というより雲の中に突入する。3台先の車も見えないような中で必死に運転することしばし、ついに峠の頂上に到着する。その名も渋峠、標高2172mの日本国道最高地点だ。国道者なら一度は通っておきたい、いわば必修単位のひとつである。


渋峠に立つ標柱。10月半ばだが、すでに辺りは雪化粧していた。

 余談ながらJRの最高地点は長野県の小海線・野辺山駅付近で、海抜1375mである。筆者はこちらも訪れたことがあるのだが、巨大な石碑、「最高地点」という名の土産物屋、さらに「JR最高地点を愛する会」の立て看板まで立っていて、ここ自体が一つの観光地になっているのに驚いた記憶がある。これに比べると渋峠は上の写真の標柱だけで、国道趣味のものとしてはちと寂しい。せっかくの素晴らしいドライブコースなのだから、もう少し看板でも立てて全国最高地点であることをアピールしてくれても罪にはならないと思うのだが。


(2004.10.3 追記)

 というようなことをほざいていたら、なんと2004年夏に下のような立派な石碑が建てられた。上の写真の標柱が立っているのは県境だが、石碑が建てられたのは群馬側に数百m寄ったところで、確かにこちらの方が若干標高が高そうだ。こんなものを作るんだったら除幕式には提案者の俺も呼んでくれればよかったのに、と一人筆者は思い上がっている最中である。なお、近くのホテルでは「国道最高地点到達証明書」も売っているそうなので、お立ち寄りの際はぜひどうぞ。


筆者の提案により建造された(に違いない)国道最高地点石碑。


 ちなみにこのあたりはスキー場になっており、峠には県境をまたぐ形でヒュッテが建っている。地方税はどっちに払っているんだろうか、といらんことを考えてしまうのは俗人の性というものである。

渋峠に建つホテル。半分群馬、半分長野。

 さてここから下りに入るわけだが、筆者の経験で言うとこの渋峠は気象が大きく変わることの多い「特異点」なのである。まあ山を越える場合には多かれ少なかれ起こることだが、ここほどくっきり晴れと雨が切り替わるところは珍しい。特にどんより曇った群馬側から爽快に晴れ渡った長野側に抜けるケースがまさに最高で、筆者のドライブ歴の中でも最も感動した体験のひとつに属する。これは是非天気予報を確認の上で試してみていただきたい。感激することうけあいである。

 さてR292の下っていく先は志賀高原、言うまでもなく秋は紅葉、冬はスキーのメッカとして名高い。標高が高いので長時間リフトに乗っていると走馬燈のように今までの人生が見えそうなくらいにクソ寒いが、その分雪質の良さは折り紙付きだ。渋・湯田中・発哺など良質の温泉も多いので、スキーに疲れた体を露天風呂で癒しつつ、髪を凍らせてスーパーサイヤ人になって遊ぶなんてのも志賀高原ならではのお楽しみである。


志賀高原スキー場。夏場は公道として使われているところもあり、雪の中から標識が顔を出していたりする。

 これらスキー場までの道のりは数年前まで相当覚悟を必要としたが、長野オリンピックの際にR292が大改修され、飛躍的に便利になった。これに限らず、上信越道・長野道・大町街道(県道31号、通称オリンピック道路)など長野の道路事情は五輪効果で大きく変わった。これを便利になったと喜ぶか、自然が破壊されたと悲しむかは人それぞれであろう。とりあえず大きな経済効果があったであろうことは間違いない。

 道の駅北信州やまのうちを過ぎ、山を下りるとそこは中野市内。信号についている交差点名の看板に、全てローマ字が大きく併記されているのもオリンピックの名残だろう。バイパス然とした広い道路に、かつてのR292の面影はない。


中野市内。典型的なバイパスの趣である。

 余談ながら中野市内の旧R292(現在はR403になっている)に不思議な標識がある。「急勾配」の標識は普通4%程度以上の急坂に設置されるのだが、なぜか1.1%の標識が立てられているのである。


人呼んで中野トリック坂。

 実はここは写真を見てわかる通り、地形のイタズラでどう見ても上り坂に見えるのである。実は下ってるんですよ、ということを示すために立てられているのだろう。全国でも1%台の標識はおそらくここだけで、非常に珍しいケースである。

 この後R292はリンゴ畑の続く長野らしい光景の中を一直線に北上し、やがてR117と合流する。R117は日本一の大河・千曲川(信濃川)に沿って走る、新潟〜長野間を結ぶメインルートである。この道も長野オリンピックによって飛躍的に改善された道の一つで、見通しのよい平野の中を伸び伸びと走り抜けてゆく。


ほー、これが地理で習った河岸段丘地形というやつか、と感心しつつ通過。

 この区間は行き交う車も多く、旧道が現役だった頃はどうやってこの交通量をさばいていたんだろうと不思議になってしまう。車が増えるのでバイパスを造る、すると新たな交通量が流れ込む、と幹線道路にはつきもののいたちごっこである。

 飯山市内でR292はR117から分離し、再び単独区間に入る。とたんに道のグレードががくんと下がり、一挙に情けない山道に成り下がる。この涌井峠の区間がR292全線中最も情けない区間であろう。長野〜新潟間を結ぶR18・R117の両幹線道路にはさまれ、ちょっとここらへんに関してはR292の存在感が薄いのはやむを得ない。


寂しさ爆発、涌井峠。

 ちなみにこの区間の山越えには、もう一本北に県道95号関田峠というライバルもいる。こちらの方は適度なワインディングで走りごたえもあり、温泉なんかも揃っているので人気が高い。展望台からは後ろにアルプス、前に佐渡島なんかも望めるので、特に晴れている日なんかにはこちらがおすすめである。


インパクト地名、飯山市硫黄。元素名が地名になってるのはここだけではあるまいか。

 新潟県に入るとこの道は飯山街道と名前を変える。街道名は目的地の名前をとってつけられるので、峠のあっちとこっちで名前が入れ替わるのはよくあることである。

 山を下って市街地に入るとR292のゴールはもうすぐだ。地下水を利用した融雪装置のため茶色く変色した路面、着雪を防ぐための縦型の信号など見ると「ああ、新潟に来たなあ」と思ってしまう。


新井市内。道路も雪国仕様である。

 もうひとつマニアックなことを言えば、下のような1本のポールに2枚の国道標識が裏表についている「両面おにぎり」というのも新潟の名物である。この手の標識を見て喜んで写真撮影などしている輩を見かけたら、それは国道マニアと思って間違いない(まああまり見る機会はないと思うが)。


1本のポールに両面おにぎり。なぜか新潟県(だけではないが)に多いタイプである。

 さてR292の方は新井市内で突然広い道に合流する。地図を見て察するに、ここはかつてR18だった区間と思われる。バイパスの開通で西に移動したR18に合流するまでの旧道が、R292として指定し直されたのだろう。国道は他の国道にぶつかって終わるというたてまえがあるため、つじつま合わせのため時たまこういうことが行われる。先に挙げたR152浜松市内などもそのケースである。

 R292は新井市街のメインストリートとして文字通り最後の花道を飾り、R18バイパスに合流して終了となる。いろいろな資料を見るとR292の終点は新井市となっているのだが、現地を見ると終点はどうやらちょっとだけ上越市に入り込んでいる様子である。


高架の道路がR18バイパス、終点となる。

 ということで全線走破を終了した。地図を見ると日本海まではあと15kmほど、日本国道最高地点を抱える山岳路線がこんな海の近くまで来ていたとは意外であった。

R292は最初から最後まで山あり谷あり、実に多彩な表情を見せる国道である。しかしこの道のハイライトはやはり志賀草津道路の区間であろう。志賀高原や草津温泉を車で訪ねる機会があったら、ぜひ渋峠越えのドライブをお勧めしたい。その爽快感が全国指折りのものであることは筆者が保証しよう。走りそのものを楽しむ人、風景写真を撮りたい人、温泉やスキーで楽しみたい人、国道走破が趣味の人、どんな人にも満足できる、これこそまさに最上級の一品である。

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