国道292号線を行く〜その1〜

 筆者はこれまでに、北は青森から南は鹿児島に至るまで18万kmを走破してきた。考えてみれば地球4周半、我ながらほっとけばどこまでも走っていくサルみたいな男である。

これだけ走ってくれば、それなりにいろいろな道に詳しくもなる。聞かれれば、その人の腕や好みに合わせて最適のドライブコースを選んで差し上げることもまあできるだろう。言ってみれば道路のソムリエだ。

 もし今あなたがぜいたくな人で、「秋の晴れた日にふさわしい、爽快で走りごたえがあって、景色が美しく変化に富んでいて、ついでに温泉なんかも楽しめるドライブコースはないだろうか」と聞いてきたとする。筆者は迷うことなく一言こう答えることだろう。「国道292号、志賀草津ルートがおすすめです」と。

 

 国道292号線は、新潟県新井市〜群馬県長野原町までを結ぶ、全長113.4kmの国道である。距離としては短い方だが、この国道は日本国道最高地点、標高2172mの渋峠を抱えているだけに走りごたえは十二分。豪快なワインディング、超有名温泉地、他では見られない景観も取り揃えて、ドライブコースとしてこれ以上何を望むのかというくらいの超一級品である。

 さてそのR292であるが、どういうわけかこの国道は群馬側で道路が2つに分裂しており、スタート地点(法律上は終点)が2つある。まあここは東側、おそらく旧道の方からスタートしてみることにする。


群馬県長野原町の起点。農協があるだけの実に渋い交差点。

 R292は吾妻川に沿って走るR145からこの「須川橋」交差点で分岐し、一路山道を登り始める。余談ながらこの長野原町にはもう一つのR292の終点、さらにR144・145・146の起点が存在し、5つの国道起終点を抱えた珍しい町となっている。

 さてR292は白砂川の作る深い渓谷に沿って北上を始める。筆者が走ったのは10月末、紅葉が実に美しい。四季折々に楽しめるドライブコースだとは思うが、やはりこの道の旬は10月だろう。


絶壁に張りつくように紅葉が広がる。

 走ることしばし、六合村に突入する。6つの村が合併したので「六合村」なのだが、読み方は「くにむら」である。「天地と四方を合わせて『国』となす」という日本書紀からの引用だそうで、なかなか学のある村長さんがいたのだろう。かなりの面積がありながら人口は2000人を切る典型的な過疎の村であるが、美しい自然とたくさんの温泉を抱えており、筆者もこの村の空気はとても気に入っている。


道の駅六合。手前の立方体のモニュメントは「六合」の象徴だそうである。

 さてこの道の駅六合を過ぎてちょっと行ったところでR405が分岐する。国道同士でありながら信号すらない、ともすれば気づかずに通過してしまいそうなしょぼい交差点だ。まあ今回はR292編ではあるのだが、ついでなのでちょっとこちらにも寄り道してみることにする。

 ここまでのR292も決して広い道ばかりではなかったが、R405はそれに輪をかけて情けない。まあ実のところR405は分岐してから15kmの野反湖まで行って途切れているため交通量はごく少なく、関東きっての秘境国道と呼ぶにふさわしい存在なのである。実際筆者も走っている途中、路上で木の実をかじるニホンザルに遭遇した(残念ながら撮影には失敗)。途中には河原がそのまま露天風呂になっているという野趣溢れまくりの尻焼温泉なども点在し、秘湯ファンにはこたえられない路線でもあったりする。


サルは右の崖にさっと飛び降りて姿を消した。

 標高が上がるにつれ紅葉は少なくなり、高山らしく白樺の木が増え始める。やがて標高1561mの野反湖に到着、純白の雲に包まれた神秘的な姿に感動する。下界は気温が20度を超えたこの日、ここらは5度を切っていた。


野反湖。ニッコウキスゲなど高山植物のメッカでもある。

 国道の方は湖の東岸に沿って走り、売店の駐車場に行き当たって途切れる。終点付近ではアマチュアカメラマンが列をなしており、高山植物の撮影に励んでいた。


まあカメラマンたちを背後から撮影する筆者も相当底意地が悪い。

 一応この後も登山道は続いていて、歩いて新潟側に抜けられるようなのだが、どうやら国道指定はされていないらしい。売店のおじさんに車道が新潟まで開通する予定があるのか聞いてみたところ「いやあ、ないでしょ。こんなところ金かけてつないだって誰も通らないよ、あっはっは」とのことであった。群馬から北へ向かう国道はR291・353・401など軒並み山脈に遮られて途切れているのだが、この国道405号もまた永遠に断絶したままの運命をたどりそうな気配であり、筆者もそれでよいと思う。

 

 さてR292本線に戻る。さらに山道を登ることしばし、草津温泉のホテル街が忽然と出現する。草津はいうまでもなく日本3大温泉の一つ、硫黄のにおいが立ちこめてこれぞ温泉の風情といった感じがする。中心部にある「湯畑」は毎分4400リットルもの湯が沸き出しているそうで、さすが日本屈指の温泉だと思わせる。


あまり温泉街チックじゃない写真を撮ってしまった。

 熱海や箱根など古い温泉街の例に洩れず、この草津温泉も中心部は道が狭く、とんでもない急坂である。山中の急斜面を車のない時代に切り開いたのだからやむを得ないが、場所柄としては温泉さえなければ間違いなく六合村以上の秘境になっていたところだろう。日本人というのは温泉があるところにはどこまででも行く民族だというのが筆者の実感であるが、ここなんかはまさにそれだ。

 R292は草津の中心街からやや離れ、温泉街の外周部を走るようになっている。ここらで分裂していた西側のR292が合流してくるのだが、その西側のR292にちょっと入り込んだところに「草津運動茶屋公園」という奇怪な名称の道の駅がある。瀟洒な煉瓦造りの美しい建物だが、誰も運動しておらず茶屋でもなく公園らしい空間もない。とはいえなかなかきれいで雰囲気は良く、ソフトクリームなんかもおいしいので休憩がてら寄って行くには非常によい。


道の駅草津運動茶屋公園。入り口に立っているのは草津温泉のキャラクター「ゆもみちゃん」。

 草津温泉を越えるといよいよ道は本格的な山岳路に入る。スキー場あり、噴煙を噴き上げる殺生河原あり、雲の海を眺め下ろす豪快な風景あり、R292はその姿を次々に変える。この周辺風景だけで一冊写真集が作れそうに思うくらいだ。


硫化水素の煙が上がる殺生河原。車を降りることも、窓を開けることさえ禁止という凄い区間。


標高2160mの白根山に向かって一路駆け上がる。


三国山脈にかかる雲を望む。

 ドラマチックに変わる風景を眺めながらいよいよクライマックスの渋峠にさしかかるわけであるが、ここからはパート2で。

 

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