国道152号線を行く〜その1〜

 21世紀を迎えた現在、日本に秘境というべき場所は果たして残っているのだろうか。いや、もちろんガイドブックなんかをみると「平家落人伝説の里」とかなんとか、それらしい場所はいっぱい載っている。しかしその「秘境」とやらに行ってみると、センターラインと歩道のあるきれいな道路が引かれていて、しかもそれが結構渋滞している上、やっとたどり着いた「秘境の湯」なるものはジャグジー、サウナ、露天風呂完備のこぎれいな施設だったなんてこともあった。結局日本に残っているのは「秘境」ではなく、「『秘境』を名乗る卑怯な観光地」しかないのかな、などと思ったりもする。

 がしかし日本はやはり広く、やはりとんでもない秘境もあるところにはある。本州でいえば、愛知・長野・静岡の3県の県境付近あたりがまず筆頭で、まあ気を失いそうになるくらい見事に人の気配がない。今回のR152はまさにその秘境地帯を抜けてゆく、人呼んで「幻の国道」である。


 R152は長野県上田市〜静岡県浜松市を結ぶ、全長134.9kmの国道である。これだけ聞けば平凡な国道だが、実際には山また山で、北から順に大門、杖突、中沢、分杭、地蔵、青崩と6つの峠を越えてゆき、後半3つの峠は対向すら難しい1車線路、さらに2ケ所の断絶区間を抱えている。このデータを読んで行く気がしなくなるのが普通の人、闘志を燃やすのが馬鹿あるいはマニアであって、筆者は言うまでもなく後者に属する。てことで今回は起点の上田市側から攻略開始。  

 R152は上田市の中心からちょっと東に外れたあたり、大屋交差点でR18(群馬県高崎市〜新潟県上越市)から分岐して始まる。まずはごく普通のスタートである。


R152起点。けっこう渋滞する上田市街。

 駅を回り込むようにして越えた後、道は一路南下を始める。ここらは長野県にしては珍しく比較的平地が続く。しばらく南下を続けたところ、R254との交点付近にあるのが道の駅「マルメロの駅ながと」である。ここは土産物店や温泉施設、コンビニになぜか居酒屋まで備えていてなかなか拠点としては便利である。


マルメロの駅ながと。ちなみにマルメロってのはカリンに似た果実をつける木の名前らしい。

 R142との重複区間を過ぎた後、道はゆるやかな上り坂になる。ここらは古くから大門街道と呼ばれていたあたりだ。どうやら長門町というのは、長久保と大門という地名を合わせてできた町名らしい。


長門町側の大門街道の標識。

 途中、和田村方面へ向けて県道155号が分岐していくが、この星糞(ほしくそ)峠というあたりはなんでも世界最古の鉱山のあったところなんだそうである。ここらから出る黒耀石は割ると鋭い破片になるため石器として利用され、3500年前から組織的に採掘が行われていた。星糞峠という変わった名前も、「黒く輝く黒耀石のことを、古代人が親しみをこめて『ほしくそ』と呼んでいた」ところから来てるそうで、まあロマンチックなんだかどうなんだかよくわからんネーミングではある。

 R152の方は相変わらず静かな谷あいをゆっくり上ってゆく。ここらは地名が長門町大門、流れる川が大門川、走る道が大門街道、目指す峠は大門峠と大門の大盤振る舞い状態で、大門好きにはこたえられない土地柄である。走ることしばし、やっと峠の頂上に到着。標高1441m、R152の最高地点である。


大門峠。この信号はおそらく日本で一番高いところにある信号ではないだろうか。

 この大門峠、静かな山道を想像して行くと大違い。避暑地として有名な白樺湖が近く、遊園地や変な美術館、リゾートホテルが乱立して、思いきり俗化したコテコテの観光地と化している。R152の6つの峠は北の方はけっこう開けていて、南に行くに従ってぼろくなってゆく傾向がある。


白樺湖。まあいいとこじゃあるんだが、ちと俗化しすぎ。

 峠の頂上で分岐しているのは観光道路として名高いビーナスライン。高山植物の宝庫としても知られ、R152茅野市からビーナスラインにかけてのルートはドライブガイドなんかには必ず収録されている有名なコースである。確かにこのあたりから見る空の澄み切った青、山々を覆う緑、山頂付近の残雪の白のコントラストは素晴らしく、信州だけが持つ宝物のような風景だと思う。

ビーナスラインは以前は全線を走ると2930円を払わねばならないかなりお高い有料道路であったが、この夏からめでたく無料解放となった。というわけでちと渋滞は予想されるが、行く価値は十二分である。

 R152の方は茅野市街に向けた下り坂となるが、長門町側と違ってけっこう急なワインディングロードになっている。こちらにも「大門街道」の標識は立っているが、これも峠の向こうとは違って武田信玄バージョンである。後でも出てくるが、この国道は何かと武田信玄に縁の深い道なのである。


信玄の顔が黄色いのは肝臓をやられているわけではなく、錆びて変色したらしい。

 茅野市中心部手前の芹ケ沢で、R299(長野県茅野市〜埼玉県入間市)が合流してくる。R299は通称メルヘン街道とも呼ばれ、多くの温泉やペンションを抱える蓼科高原を抜け、標高2127mの麦草峠を越えて群馬方面へ向かう高原の道である。こちらもドライブルートとしては最上級、おすすめの一品である。


R152+R299の重複区間に立つメルヘン街道の標識。曇り空なのが残念。

 ここらも縄文時代の遺跡が見つかったところらしく、なぜか縄文人の住居をかたどった交番なんかもあったりする。この4月にできたばかりで、尖石(とがりいし)遺跡が管内にあるところからの命名だそうである。


謎に満ちた尖石縄文交番。中の警官は貫頭衣を着て、石製の矢じりを使って狩猟生活をしている(嘘)。

 というわけで道の方は茅野市街へと突入する。ここのR20(東京都中央区〜長野県塩尻市)とクロスするあたりはちとややこしいのだが、今のところ茅野トンネル(通称100円道路。ただし最近無料になった)をくぐってR20バイパスに接続するのが正しいルートらしい。現在杖突峠から降りてくる新しい道路が工事中なので、そのうちにすっきりした姿になると思われる。

しかしこの100円道路経由にルートが変更される前は、R152は民家の軒先みたいなとんでもない区間を通っていた。なんでこれが国道指定されていたのか実に謎であるが、地図によっては今でも国道扱いをしているものもあったりで、正確なルートははっきりしない。いろいろな意味で謎の深い区間である。


R152旧道(?)茅野市内軒先区間。なんじゃこりゃ。

 両端を除けば、茅野でR20と交差するあたりがR152で一番にぎやかなところ。ここからは再び杖突峠へ向けての上り坂となる。杖を突かないと登れないから杖突峠なのかどうかは知らないが、まあこれも結構な坂である。途中に展望台があり、茅野市街を一望に見下ろすことができる。


杖突峠にある看板とバス停。アングルに凝り過ぎて失敗したの図。

 今回はここまで。次回からいよいよ秘境に突入する。

 

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