というわけでR152の旅パート2。この国道が真価を発揮するのはここからである。
杖突峠を越えて到着するのは高遠町。戦国から続く城下町であるが、今では桜の町として有名になっている。こちらの桜は東京よりも確実に1ヶ月は遅い。品種も違うのだろうが、やはり信州の気候は違うことを実感させる。

高遠町内は桜だけでなく、沿道に花が多く咲き乱れていてドライバーとしては走っていて非常に楽しい。とはいえR152にはこの先まともな市街地はずっとなくなってしまうので、買い物などしておくなら今のうちである。
高遠に続いて登場するのは長谷村。ダム湖沿いに走ることしばし、現れるのは道の駅「南アルプスむら長谷」である。ここは焼きたてのパンが売り物で、安い上にとてもおいしい。焼き上がるのを待って並んで買う価値あり、おすすめである。

道の駅を過ぎてしばらく、ついに秘境国道R152が本性を現わし始める。標高は上がり、反比例するように道は狭くなってゆく。酷道を走り慣れた筆者でも「本当にこれで間違ってないのか?」と首をひねるような道が続いているが、他に分岐する道もないので間違いようもない。中沢峠を越え、大鹿村との境界である分杭峠に到着。かつてはここに国境が置かれていたらしい。
余談だが、試しにYahoo!で「分杭峠」と入れて検索してみたら、「ゼロ磁場ポイント」とか「『気』の集中する場所」とか、ややもすれば怪しげなHPがたくさんヒットした。筆者には何も感じられなかったが、なんかその手の方々にとっては特殊なポイントであるらしい。

峠に降り立って写真を撮ろうとしてふと標識を見たら、「分杭峠」の字が思いきり間違っていて思わずコケた。上りと下りの2枚のうち片方だけが間違っていたが、なんでまたこんなことになるんだろうか。

大鹿村は何でも信号・スキー場・ゴルフ場が一切ないというのが売り(?)なんだそうで、まあそうだろうなと思わせるえらい山の中である。路面も一応舗装はしてあるがあちこちひび割れたり崩れたりしていて、国道らしい雰囲気は1ミリたりとも感じられない。すれ違いも難しいところが多いのだが、まあ対向車もめったに来ないのでそれほど問題ないという話もある。

さて道路地図でR152全体を眺め渡してみると、もちろん峠付近では多少のくねくねはあるけれど、全体として驚くほど一直線に近いことに気づく。実のところR152は中央構造線という、日本を大きく2つに分断する大断層に沿って走っている道なのである。いわば日本の裂け目となる谷筋に沿っているわけで、一直線なのも納得がいくというものである。
大鹿村にはこの中央構造線が地上に露出しているところがあり、一般の人も観覧することができる。といっても川沿いの斜面の土の色が変わっているだけなのだが、地質学的には大変に価値のあるものであるらしい。

こうした断層に沿っているためここらの地勢は不安定で、よくがけ崩れや落石が発生する。R152の整備が他に比べて進まないのは、ひとつにはこういう理由にもよっているのであろう。このあたりは後で青崩峠のところでも触れる。
ということで次は上村(かみむら)へと続く地蔵峠が登場する。もう峠に次ぐ峠でさすがにいやになってくるが、ここまで来ると逃げ道もないので、もう腹をくくって南下を続ける他ない。
この地蔵峠、道から少し奥に入ったところに、その名の通り小さなお地蔵様が祀ってある。この道が秋葉街道と呼ばれていた昔から、たくさんの旅人を見守ってきたのだろう。この際なので筆者も今後の安全を祈り、少額ながら賽銭を捧げておく。

地蔵峠という名の峠はここだけでなく、全国各地にある。かつてはあちこちの峠にこうして地蔵が祀られており、旅人が旅の安全を祈って手向けをしていった。この「たむけ」がなまって、いつしか「とうげ」という言葉になったというのが「広辞苑」に載っている説である。この他、地形がたわんだ(山脈の低いところ)場所を「垰(たわ)」と呼び、この「垰越え」が転訛して「とうげ」になったという説もあって、こちらも信憑性が高そうだ。
さてこの地蔵峠であるが、実は断絶区間となっていて、R152としては道がつながっておらず、蛇洞林道という道がその間をつないでいる。この林道は名前こそおどろおどろしいけれど、きちんと舗装はなされていてそれほど走りにくくもなく、別にそのまま国道に組み込んでしまって何の問題もなさそうなものである。

蛇洞林道の途中からは「しらびそ峠」へと続く林道が分岐する。ここらは「日本のチロル」と呼ばれる、急斜面に張りつくような集落があるところで有名なのだが、今回はさすがにしんどいので断念。
で、R152へと復帰する。相変わらずただひたすらに谷筋をたどる細々とした道が続くが、上村中心部ではさすがにまともな道になる。村役場があるあたりの地名は「上町」というらしく、上村が町に昇格した場合にはどうするんだとかいらんことを思ってしまうが、見たところしばらくその心配はなさそうだ。

さてその上村役場前で、R256が分岐する表示が出る。

1993年の国道改正までは、R152はこのR256方面へ向かっており、終点は飯田市であった。といってもこの上村分岐直後で道はブチ切れ、その間を鼻血が出そうなほど情けない県道がつないでいる。まあどっちに転んでも断絶区間を2つ抱えた秘境国道であることには変わりはないのであった。
というわけで次回、いよいよファイナルステージの青崩越えである。