☆タンパク質の話(5)〜タンパク質の折り畳み〜

 タンパク質は生命を支えるあらゆる機能を受け持つきわめて精密な分子機械であること、しかしそのつくりはわずか20種類のアミノ酸が1列につながったものに過ぎないことなどを述べてきました。しかしタンパクの鎖はただ貨物列車のように長々と伸びているわけではなく、きちんと折りたたまれて一定の構造をとることになっています。今回はそのあたりの話を。

 タンパク質の鎖は-NH-X-CO-NH-X-CO-NH-という構造の繰り返しです。このH(水素)とO(酸素)は水素結合という力で引き合う性質があり、これがタンパク質の形を決める一番大きな要因になります。例えばあるアミノ酸のOと、その3つ先のHが順番に水素結合していけば、タンパクの鎖はらせん型を描くことになります。これがα-へリックスと呼ばれる構造です。

α-ヘリックス(側鎖は省略)。下の図はらせん構造を強調したもの。

 安定なα-ヘリックスはタンパク中に最もよく見られる構造で、一般のタンパクでは全アミノ酸の1/4がこのα-ヘリックス構造になっているといわれます。

 α-ヘリックスの構造がよく生かされたタンパク質として、DNAの情報を読み出す機能を持つ「ロイシンジッパー」と呼ばれる構造があります。ロイシンはタンパク質を構成するアミノ酸の一種で、側鎖に炭素4つから成るイソブチル基を持ちます。

leucine

 ロイシンジッパーは2本の長いα-ヘリックスから成り、それぞれのヘリックスには6つおきにロイシンが配置されて、側鎖はヘリックスの横に一列に並びます。このロイシン同士が文字通りジッパーのように噛み合い、2本のヘリックスを束ねあわせるのです。これがまるで2本の箸を突っ込むようにDNAの溝に入り込み、その情報を読みとるわけです。

DNAと相互作用するロイシンジッパー。下は模式図で示したもの(赤がロイシンジッパー、白がDNA分子)

 筆者がこのロイシンジッパーの構造を初めて知ったときには、誰が設計したわけでもないタンパク質にこんな巧妙な芸当ができるものかと心底「ぶったまげた」記憶があります。35億年の生命の歴史は驚くべき生物をたくさん生み出していますが、分子レベルでもまた信じられないようなからくりをたくさん作り出しているという一例です。


 もう一つタンパク中によく見られる構造として、β-ストランドとβ-シートを挙げておきましょう。ストランドの方は要するにアミノ酸の鎖が一直線に長く伸びた形で、これが何本か水素結合で引き合って束になり、平面的に並んだものがβ-シートということになります。

逆平行β-シート。酸素(赤)と水素(白)が引き合って並んだもの。

 これらの基本単位が組み合わさって、タンパク質分子は一定の形をとることになります。一例として、以前にも登場したアルコールデヒドロゲナーゼを挙げておきましょう。ちなみにタンパクの表示はまともに全原子を表示したのでは構造がわかりにくいので、下のように模式図で示すことがよく行われます。赤いらせんがα-ヘリックス、青いリボンがβ-シートです。

alcohol dehydrogenase。上は全原子表示、下はリボン形式での模式図。

 このようにタンパク質は、一定の形に折りたたまれることによってその機能を発揮します。しかし完全にガチガチに固まっているのではなく、多くのタンパク質はかなりダイナミックに動いていることがわかっています。このあたりの柔軟性、流動性こそがタンパク質の精巧な働きを支えているものと思われます。

 熱をかけると分子の動きは激しくなり、だんだんとタンパクの折りたたまりはゆるんでほどけてしまい、元の機能を失います。これを「変性」といいます。卵をゆでると白く固まるのは、卵白のタンパク質であるアルブミンの折り畳みが崩れ、複雑にからまり合った姿なのです。


 このようなタンパクの折り畳み、立体構造はどのようにして決まるのでしょうか?天然のタンパクを人工的に合成してやっても自然に正しい立体構造にまとまること、「変性剤」と呼ばれる化合物で折り畳みを崩してやっても、変成剤を取り除いてやればきちんと元の構造に戻ることなどから、20種のアミノ酸の配列が決まれば、その立体構造もひとつに決まるものと(一応)考えられてきました。

 であればアミノ酸の配列を見ただけでどこがα-ヘリックスになりどこがβ-シートになるか、また全体としてどんな形にまとまるのか、見当がついてもよさそうなものです。ところがこれは今のところ全くうまくいっていません。いろいろな方法が試されていますが、最新鋭のコンピュータをもってしても一から立体構造を推定するのはほとんど不可能、というのが現状です。

 最近の研究では、実際には他のタンパクの折り畳みを助けるタンパク(「シャペロン」といいます)や、正しい形になり損ねたタンパクに目印をつけ、さっさと分解してしまうタンパク、変成したタンパクをすかさず元の形に戻すタンパクなどが働いていて、タンパクの折り畳みは想像以上に厳密に管理されていることがわかってきました(タンパクの管理をしているのもまたタンパクである、というのもなかなか面白いところです)。生命の長い歴史が生み出したシステムは、人間の浅知恵ごときではまだまだ太刀打ちできない複雑さを持っています。

 生体がこうまでしてきちんと折り畳みを保とうとするのはなぜなのでしょうか?答えは、正しい形に折りたたまれなかったタンパクは無用なだけでなく、時として非常に有害だからです。

実はタンパク質のたたみ損ねがとんでもない事態を招き、世界を震撼させる事態にまで発展したことがあります。精妙なタンパク質のちょっとした変化が引き起こしたこの一件については、また項を改めて触れることにし、今回はここまでとしておきましょう。

 

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