Molecule of the Week (51)

 

レスベラトロール(resveratrol)

 クリスマスシーズンのこの時期、シャンパンやワインで乾杯という機会も多いのではないでしょうか。というわけで今回はワインの成分に関わる話を。

 脂肪分の取りすぎが動脈硬化をもたらし、ひいては生死に直結する重大な心臓疾患を引き起こすことはご存知と思います。しかし動物性脂肪をヨーロッパで最もたくさん摂取するフランスの農民にはこれらの病気が少ないことが知られており、この現象は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれて昔から謎とされてきました。

 近年になり、これは彼らが赤ワインをたくさん飲むからであるという説が提唱され、注目を集めました。動脈硬化は、脂肪分が活性酸素と反応してできる「過酸化脂質」が動脈の壁にたまることによって引き起こされます。赤ワインに含まれるポリフェノール類は活性酸素などと反応してこれをつぶし、過酸化脂質の生成を防いでくれるというわけです。

 こうした抗酸化作用が強いのはブドウの皮に含まれるアントシアニン類で、しかもそれが数分子つながった「オリゴマー」がさらに強い作用を示すことがわかっています。この重合反応は、ワインが樽の中で熟成される過程で進むことがわかっています。つまり心臓病防止作用は白ワインより赤ワイン、若いワインより年代物のワインが優れているということになります。

アントシアニン類の一種

 こうしたポリフェノール類の中でも注目されているのが、トップに掲げた化合物「レスベラトロール」です。この化合物は抗酸化作用の他、Sir2というタンパク質を活性化することがわかっています。このSir2は「寿命制御因子」とも呼ばれ、レスベラトロールを与えた酵母は寿命が1.7倍にも伸びたという報告もあるそうです。酵母の結果を単純に高等生物に当てはめるわけにはもちろんいかないでしょうが、注目に値する報告であることは間違いありません。

 

 と、これだけ並べればワイン好きは大喜びとなるわけですが、これらを否定する意見もあります。ワインには何万という物質が含まれますし、またワイン愛飲家に病気が少ないと言ってもここには地域・年齢・食文化など様々なファクターがからむので、ひとつひとつの化合物の善し悪しを判定するのは非常に難しいことなのです。心臓病に効果があるのはポリフェノールではなく適量のアルコールだという人もいますし、単にワインをたくさん飲めるほど経済状態のよい階層は、栄養もよく健康にも十分気を配っているからだという考えもあります。

 また、効果があるほどのポリフェノールを得ようとすると、計算上毎日グラス3〜4杯のワインを飲まねばなりません。これは一般的な日本人には相当きつい量で、抗酸化作用より先に肝臓がやられてしまう人もいることでしょう。ワインにも効果はあり「酒は百薬の長」なのかもしれないけれど、量を過ごさないように飲まなければ逆効果である、とまあ実に当たり前の結論に落ち着くことになりそうです。

 

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