Molecule of the Week (27)

アズレン(azulene)

 防虫剤としておなじみのナフタレンはベンゼン環が2つつながった「6・6」の構造ですが、これが一つずれて「7・5」になった「アズレン」と呼ばれる分子があります。ナフタレン同様、全体で10個のπ電子が共鳴し、安定化した芳香族分子の一種です。

 炭素と水素だけでできた分子のほとんどが無色透明である中、このアズレンは珍しく美しい青色を示します。アズレンという名前もラテン語の「azul」(青色)から命名されたものです(ちなみにフランスの観光地コートダジュール(Cote d'Azur)、イタリアのサッカーチームの愛称「アズーリ」(azzuri)なども、この流れを汲んだ言葉です)。

 天然からのアズレン誘導体は、カモミール(カミツレ)などのエキスを蒸留することによって得られます。これらの植物は5・7員環を持つテルペン類を含んでおり、これを加熱することで脱水・空気酸化が起こってアズレン骨格ができるのです。ひずみのある飽和の7員環から安定なアズレンへ移ろうとする力が働くせいか、見た目の印象よりも案外と起こりやすい反応であるようです。

グアイオール(左)が加熱によって酸化を受け、グアイアズレン(右)ができる。

 グアイアズレンを含む精油はカモミール・ブルーと呼ばれ、古くからヨーロッパで民間薬として用いられてきました。アズレン誘導体は穏やかな抗炎症作用や抗菌作用を持ち、副作用がほとんどない安全な医薬であるためです。現在でも胃薬、うがい薬、目薬などに広く配合されており、これらで青い色のものを見つけたらたいていアズレンの色と思って間違いありません(実際にはスルホン酸塩とし、水溶性としたものが配合されています)。ハーブ、薬草といった古くから伝わる知恵が、今でも実際の医療の中で生かされているよい一例です。

 

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