Molecule of the Week (19)

 

hangman salophen

 理科の授業で、二酸化マンガンに過酸化水素水をかけて酸素を発生させる実験を行った経験のある方は多いと思います。酸素の泡がぶくぶくと発生していかにも「化学実験」という感じがする、子供心にも印象に残る反応です。

2H2O2 → 2H2O + O2

この応用で、二酸化マンガンの代わりに新鮮なレバーを使っても酸素が発生することはご存知でしょうか。これは肝臓に含まれるカタラーゼという酵素が、過酸化水素を分解して水と酸素にする能力を持っているからです。活性酸素による細胞の傷害を防ぐ、肝臓の大事な機能の一つです。

 このカタラーゼの能力をまねた小分子が、Noceraらによって作り出されました。中心にマンガン原子を持つ「サロフェン」という部分構造(緑)と、カルボン酸を持つパーツ(紫)が、適当な距離のスペーサー(青)で連結された形の分子です。彼らはこの化合物に「ハングマン・サロフェン」というちょっと物騒なニックネームを与えました。「ハングマン」は「絞首刑執行人」という意味で、ぶら下がったカルボン酸部分を絞首台に見立ててのネーミングでしょう。

 この分子はカタラーゼ同様、マンガン原子についた酸素(赤)と、ぶら下がったカルボン酸との共同作業により、単なるマンガン塩よりはるかに素早く過酸化水素を分解します。マンガンとカルボン酸が適当な距離に固定されていることが重要であり、両者がバラバラだととてもこのような効率の良い触媒作用にはなりません。

 何度も述べた通り酵素の能力には驚くべきものがありますが、分子のサイズが大きく、熱にも弱いなど使用にはいろいろな制限もあります。こうした酵素の機能を小分子で実現するという研究は、基礎・応用を含めてさらにホットになっていくと思われます。

 J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 5278 S.-Y. Liu et al.

 

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