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 2009年 第7号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:今月のお知らせ


 ☆今週の反応・試薬

 ・Vilsmeier試薬

 アミドとオキシ塩化リン(POCl3)または塩化チオニル(SOCl2)の反応で得られるクロロメチルイミニウム塩形式の試薬。多くの場合、DMFとPOCl3の反応で得られるものを指す。

 Vilsmeier試薬は強力な求電子剤であり、電子豊富なアルケンや芳香環に付加反応を起こす。DMF由来の試薬を使う場合、Vilsmeier-Haackホルミル化と呼ぶ。

 またアルコールを対応するアルキルクロリドへ、カルボン酸を酸塩化物に変換するためにも用いられる。酸塩化物の合成には、カルボン酸と当量のオキシ塩化リンに、触媒量のDMFを加える処方も用いられる。

※常用される試薬ですが、以前も書いた通りDMFとPOCl3の反応で発ガン物質ジメチルカルバモイルクロリド(Me2NCOCl)ができる危険があります。頭に入れて用いるべきでしょう。

 参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 P468


 ☆注目の論文

・反応

Cobalt-Catalyzed N-Arylation of Nitrogen Nucleophiles in Water
Yong-Chua Teo, Guan-Leong Chua
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200802483

 塩化コバルトを用いたN-アリール化反応。溶媒は水のみ。基質の溶解性が低そうなものばかりなので、もう少し溶けやすいものを使ったら効率が上がるんではないかという気も。

・全合成

Marine natural products: synthetic aspects
Nat. Prod. Rep., 2009, 26, 245 Jonathan C. Morris and Andrew J. Phillips
DOI:10.1039/b805111a

 情報をいただきました物件。2007年に発表された海洋天然物全合成のレビュー。ファースト・シンセシスの一覧表もついていて便利である上、眺めて面白い総説。

Total Synthesis of (±)-Neovibsanin B
Hiroshi Imagawa, Hayato Saijo, Takahiro Kurisaki, Hirofumi Yamamoto, Miwa Kubo, Yoshiyasu Fukuyama and Mugio Nishizawa
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol802973f

 アルツハイマー症に効果があるジテルペンの合成。ゲラニル基から始めて、官能基を徐々に増やしていくアプローチ。

Biomimetic Total Synthesis of (±)-Pallavicinolide A
Jia-Qiang Dong, Henry N. C. Wong
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200806335

 4環性ジテルペノイドの全合成。IBX酸化→Diels-Alderのタンデム反応が綺麗に決まってます。

A Total Synthesis of Norhalichondrin B
Katrina L. Jackson, James A. Henderson, Hajime Motoyoshi, Andrew J. Phillips
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200806111

 ごつい全合成が来ました。32個の不斉点を持つマクロライドを37段階にて合成。タンデムメタセシスなど、見せ場満載。

・医薬

Efforts towards the Identification of Simpler Platensimycin Analogues - The Total Synthesis of Oxazinidinyl Platensimycin
Jingxin Wang, Vincent Lee, Herman O. Sintim
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200802568

 期待の新規抗生物質・プラテンシマイシンの簡略化誘導体の合成研究。まあ活性は下がってますが。この化合物は大学の先生も誘導体をもっと作ってほしいですね。

・その他

Synthesis of a nanocar with organometallic wheels
Tetrahedron Lett. 50, 1427 (2009)
Guillaume Vives, James M. Tour

 ルテニウム錯体をホイールとして持ったナノカーの合成。次は何が出てくるやら、興味津々です。

Can Two Molecules Have the Same NMR Spectrum? Hexacyclinol Revisited
Giacomo Saielli and Alessandro Bagno
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol900164a

 疑惑の全合成・ヘキサシクリノール問題の追及。ま、状況証拠から見てほぼクロであろうと思われますが、どうおさまるんでしょうか。これはそのうちどこかで書いてみようかと思っております。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 p-トルエンスルホニルヒドラジドを、ヒートガンで60度ほどに加熱して乾燥していたら、煙を上げて分解した。

 以前も取り上げた通り、結構使い道の広い試薬なのですが、やはりN-N結合を持つ化合物はそれなりの危険性があります。油断せず、丁寧に扱うべし。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.211)

 ☆館長の本棚

 「超」文章法 野口 悠紀雄著 中公新書 819円

 ベストセラー”「超」整理法”など膨大な著作で知られる野口氏の文章読本。理系の文章術の本としては木下是雄氏の”理科系の作文技術”という大定番(30年近く前の本が、アマゾンランキングで3ケタ台にいるのは凄い!)がありますが、この本もそれと並んでお勧めできるかと思います。比喩や引用の使い方、重要なメッセージの伝え方など、ある意味マニュアル的にまとめられており、小説ではなく理科系の文章を書くのに向いているのではないかと思います。以前紹介した「アイデアのちから」と、スタイルはずいぶん違いますが、方向性としては似ているかもしれません。

 文章を書く機会は何かと増えており、人物評価にも大きな影響を与えます。少し文章の勉強をしておくのも、無駄にはならないかと思います。


 ☆編集後記

 先週のtert-ブチルリチウム発火の件、針が抜けたと書きましたが、実際にはプランジャーが内圧によって押し出され、注射筒の後ろから試薬が吹き出してまともに浴びたということのようです。失礼しました。しかし恐ろしい事故で、これは気をつけないといけないですね。

 さて私事ですが、春から少々忙しくなりそうな案配です。まだどのくらい時間が取られるかわからないのですが、ちょっとこのメルマガもこのまま発行していけるかわからない状態です。週刊ではなく、隔週か月刊になるかもしれませんので、そのあたりはご了承のほどを。

 で、もうひとつ私事ですが、テレビに出ることになりました。大丈夫かおいという気もしますが頑張ります。詳細はこちらにて。

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