☆フロンとオゾン

 この夏も暑い夏でした。たっぷりと陽射しを浴びてずいぶん日焼けした人も多かったことと思います。今回はその日焼けに関係のある、フロンの話題を取り上げてみます。

 フロン(フレオン)は1〜3個の炭素とフッ素、塩素、水素が化合したものです。これらの数と組み合わせを変えることによって様々の性質を持ったフロン類が作り出せます。それぞれの原子の数に応じてFleon11、12、113などといった記号をつけて区別されます。

左よりフロン11、フロン12、フロン113。灰色が炭素、水色がフッ素、黄緑色が塩素。

 フロンはデュポン社によって1950年頃に開発されました。炭素-フッ素結合はきわめて安定な結合であり、それを反映してフロンも非常に安定な化合物です。安定ということは他の物質と反応しないということで、従って体内の分子とも無反応、つまり無害ということになります。高熱下でも安定ですから、不燃性でもあります。フロンを開発した研究者はまずフロンを胸いっぱいに吸い込んで見せ、その呼気でろうそくを吹き消して、優れた性質をアピールして見せたということです。

 こうしてフロンは華々しくデビューしました。その性質を買われて、冷蔵庫やクーラーの冷媒、スプレーのガス、発泡スチロールの泡、機械類の洗浄溶剤、消火剤などあらゆるところに用いられ、1974年にはその生産量は100万トンを超えたということです。しかし安定で決して壊れないものをどんどん生産していれば、それが環境中に蓄積していくのはあまりに当然のことでした。

 同じ1974年、フロンがオゾンと反応してこれを壊す可能性が指摘されます。普通の条件では安定なフロンですが、強い紫外線の照射を受けると炭素−塩素結合が切れ、その結果放出される塩素ラジカルという極めて活性な化学種がオゾンと反応します。しかも悪いことに連鎖的に反応は進行し、平均して1分子のフロンが50分子のオゾンを壊すことになるといわれます。これがオゾン層破壊の原因になります。

 オゾンはO3という分子式を持ち、酸素に紫外線を浴びせることによって生成します。地球大気に飛び込んできた紫外線はまず酸素と反応し、オゾンによって効率的に吸収されます。紫外線はある程度は生物にとって必要ですが、あまり多量に浴びると皮膚がんなどの原因にもなります。オゾン層は地表に持ってくると厚さ4mmにしかならない薄い膜のようなものに過ぎませんが、地球上の全生命を守る守護神とさえいえるのです。この貴重なオゾン層を破壊するフロンは、かつての有用な人工物質の代表の座から一転、環境破壊の代名詞の汚名をかぶることになりました。

 毎年作り出される新規化合物の数は数百万種といわます。これら全てについて毒性や蓄積性などといった危険性の試験を行なうのは極めて難しく、事実上不可能といっても過言ではありません。実際こうした人工化学物質による被害は、大きな損害が出てからでないと気づかれないことがほとんどです。してこのケースや環境ホルモンなどのような、思いもよらない危険をはらんだ化合物ではなおさらです。こうした公害、環境汚染の数々は化学の背負った重い十字架といえます。

 紫外線の量はすでに我々が子供であった頃の3〜4倍になっているという説もあります。これは今後どうなっていくのでしょうか。学者の中でも、フロンの放出さえ止めればオゾン層は回復するはずという楽観派と、すでにばらまかれたフロンが成層圏に達するのには数十年かかるので、今頃止めてももう遅いという悲観派とがいて、実際のところはまだ誰にもわからないということのようです。フロンの問題は我々に多くの教訓をもたらしましたが、今後人類にその教訓を生かす機会はあるのかどうか、ただ神に祈る他はないようです。

 

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