国道156号線を行く・その2

 というわけで前回の続き。

 合掌造集落を抜けてしばらく行くと、突然ぬっと巨大な建造物が現れる。建設中の高速道路・東海北陸道の五箇山ICである。この後R156は、ずっ とこの高速と併走して南へ向かうことになる。高速を造るならR156よりR41(愛知県名古屋市〜富山県富山市)沿いに造った方が、地形的にも人口密度的 にもよかったのではないかという気がするが、どうやらこれは沿線都市の政治力学が働いた結果らしい。

まあ結果として世界遺産へのアクセスがよくなったとも言えるし、恐ろしく不釣り合いなものができてしまったともいえる。筆者は東海北陸道は使いでの ある道路だと思っており、その建設に何ら反対するものではないが、コンクリートの巨大な塊が五箇山の集落を見下ろしている姿は非常に威圧的で、いろいろな ことを考えさせる情景であるには違いない。

 と言っているうちにまたもや「道の駅かみたいら」が現れるのですかさずピットイン。レンガ造りの瀟洒な建物が目印である。ここもいろいろと名物料理があるが、豆腐田楽が素朴な味わいでとてもおいしい。


道の駅かみたいら。すぐ裏には庄川が流れており、美しい滝を眺めることができる。

 この駅を出るともう岐阜県が目の前なのであるが、この富山〜岐阜県境がちょっとした名所なのである(以前「国道マニア的全国名所案内」でも取り上げた)。 ここは蛇行する庄川が両県の境界線を成しており、R156は7つの橋でこの川を直線的に越えていくため、橋を渡るたびに岐阜・富山が目まぐるしく入れ替わ るのである。虹色に塗り分けられた7つの橋はまとめて「飛越七橋」と名付けられており、文字通り飛騨・越中両国を飛び越すように快走できる。


飛越七橋最後にして最大の「合掌大橋」。横から見ると支柱が合掌造りの形に似ているのである。

 この県境区間は今でこそ快走路だが、以前は細いヨレヨレの道で、国道番号とかけて「(谷底に落ちたら)イチコロ」なんぞとも呼ばれていたらしい。 今でも旧道は封鎖されずに残っているが、試しにほんの数十メートル入り込んだだけで歩行さえ困難な廃道と化した。人間は自分たちの都合で自然を破壊し続け ているというが、ほんの少しほっておいただけでこの有様、自然の押し返す力も相当なもんだと実感してしまう。


崩れ行く廃道。ぼろぼろに錆びた数枚の標識だけが、この道がかつて国道であったことの証である。

 岐阜県に入って2つの長いトンネルをくぐり、道の駅白川郷を過ぎたところで突然きっつい渋滞にはまった。この道で渋滞は連休中以外あり得ないらし いが、こういうケースほど逃げ道がないので悲惨な渋滞になる。ちなみに渋滞の先頭は白川村の中心、荻町というところだった。することもないのでボケッと風 景でも眺めるしかないが、地元民の「全くもう」といわんばかりの冷たい視線が実に痛かった。ごめんなさい、物見遊山で。

 白川村を必要以上に満喫する区間が過ぎると、今までがウソのような快走路に突入する。平瀬温泉付近にはちょうど広いバイパスが開通したばかりらし く、みんなさっきまでの憂さ晴らしをするかのように全開でぶっ飛ばしていた。よっしゃじゃあ俺も飛ばすぞとアクセルを踏み込みかけたところで、正面に巨岩 を積み上げた城壁が行く手をふさぐように現れる。国内第4位の規模を誇る巨大なロックフィルダム、御母衣(みぼろ)ダムである。


ロックフィルダムというのは粘土層をはさんで岩を積み上げ、川をせき止めるタイプのダム。

 御母衣ダムの完成は昭和35年のことだそうで、当時の技術でよくこんな山奥にこんなバカでかいものを造ったもんだとあきれつつ感心する。そばを通るR156は、この建設と保全のためにずいぶん整備が進められたのではなかろうか。実際同じく北陸から岐阜市へ向かうR157(石川県金沢市〜岐阜県岐阜 市)は途中に温見峠という日本有数の大酷道区間を抱えており、30km以上にわたって延々と悪路が続いている。R156とは1番違いだから似たようなもんだろうと油断して走りに行くと、その実態は矢田亜希子と和田アキ子ほどに違うので注意が必要である。

 さて御母衣ダムといえば有名なのが荘川桜である。ダムの底に沈む予定だった桜の巨樹を、人造湖の隣に移し植えしたもので、「プロジェクトX」でも取り上げられて有名になった。樹齢450年、重量73tもの木を移植に成功したのは世界的にも例がないんだそうである。


R156と御母衣湖の間に佇む荘川桜。

 筆者が訪れた時は微妙にピークを過ぎており、満開の花の下というわけにはいかなかったが、苛酷な環境変化に耐えて生き延びた老桜の風格は十分に感 じられた。この辺のストーリーを知らないで来たなら「なんかでかい桜があった」くらいで素通りしてただろうから、改めて旅に情報とか下調べってのは重要で あると思う。

 さて南北に細長い御母衣湖沿いの区間を過ぎると、東側からR158(福井県福井市〜長野県松本市)が合流してくる。中部地方の山岳地帯を東西に突っ切る貴重な幹線国道で、R156とはここから30kmあまりのランデヴー走行となる。


開けた高原の風情。

 国道の重複区間というのは思っている以上にたくさんあるのだが、上のように2連・3連の標識で全てを表示しているところと、一番若い番号だけを表 示してお茶を濁しているところがあり、この辺は県によってだいぶ扱いが違う。岐阜県は北海道・岩手・栃木などと並びもっとも気合いが入っている県の一つ で、「重複区間」の補助標識までつけるサービスぶりでマニアには歓迎されている。

 さてその重複区間に入るあたりから視界が開け、標高の高さを忘れさせるようなゆったりと平坦な区間が続く。多数のペンションやスキー場を抱える中部地方有数のリゾート地、蛭ヶ野高原である。

 その蛭ヶ野峠に、中央分水嶺公園というちょっと面白い施設がある。雨水はここを境界に、北へ流れる水は庄川水系となって日本海へ、南へ流れる水は 長良川となって太平洋に向かうのである。筆者の記憶ではこの手の施設は他にR153善知鳥(うとう)峠、R175水分れ(みわかれ)なんかにもあったはず である。


ここを境界に、左へ行った水は富山湾へ、右へ行った水は伊勢湾へ注ぐ。

 試しに落ち葉を一枚落としてみたら、葉っぱはしばらく水面をたゆたった後、ゆっくりと日本海方面へ流れていった。うーむ、人生にはこういう場面が きっと何度かあるんだよなあ、後になって気づいてももう戻れないんだよなあ、と腕組みをしながらいらんことをいろいろ考える。そういえばこの水流は本州を 縦断し、陸地を東西にすぱっと分断しているわけでもある。ただ水がちょろちょろ流れているだけでありながら、実はなかなか奥の深い施設だ。中央分水嶺公 園、実に侮りがたしである。

 というわけでパート3へ続くのであった。

 

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