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 2008年 第45号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報:シリコーン 〜有機物と無機物の間〜(本館) ACSサイトリニューアル(分館)


 ☆今週の反応・試薬

 ・ヨードトリメチルシラン(Me3SiI,TMSI)

 沸点106度、比重1.406g/cm3の無色透明な液体で、多くの有機溶媒に可溶だが、アルコール・エーテル・エステル系溶媒とは反応してしまうので、アセトニトリルや塩素系溶媒が用いられる。湿気に対して不安定で、空気中では白煙を上げて分解する。使用の際は分解してヨウ化水素などが出るので、ドラフト内で取り扱う。

 アンプル入りで市販されているが、TMSClとNaIをアセトニトリル中混合する、あるいはヘキサメチルジシラン(TMS)2とヨウ素I2を加熱することで発生させることもできる。

 ハードなカチオン(ケイ素)とソフトなアニオン(ヨウ素)の組み合わせなので相性が悪く、このため反応性が高い。エーテルやエステルと反応し、C-O結合を切断する。アセタールやオルトエステル、カルバメートなども切断可能なので、切れにくい保護基の脱保護にも用いられる。

 シリル化剤としても用いられる。トリエチルアミン・TMSIの組み合わせで、ケトンを対応するエノールエーテルに変換できる。

※他に、還元剤ともなりうるようです(スルホキシド→スルフィドなど)。市販もされてますが、一回開けたら使い切りになります。筆者の経験では、(TMS)2とI2から作るのが一番確実な気がします。


 ☆注目の論文

・反応

2-Iodoxybenzenesulfonic Acid as an Extremely Active Catalyst for the Selective Oxidation of Alcohols to Aldehydes, Ketones, Carboxylic Acids, and Enones with Oxone
Muhammet Uyanik, Matsujiro Akakura and Kazuaki Ishihara
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja807110n

 IBXのスルホン酸版。触媒量のo-ヨードベンゼンスルホン酸とOxoneで、手軽に素早く酸化が可能。酸化剤の量を加減することで、2級アルコールからエノンへの酸化もできる。危険なIBXを当量使うより遥かに便利そうです。

Enantiodivergent conversion of chiral secondary alcohols into tertiary alcohols
Jake L. Stymiest1, Viktor Bagutski1, Rosalind M. French1 & Varinder K. Aggarwal
Nature 456, 778-782 doi:10.1038/nature07592

 不斉二級ベンジルアルコールから不斉三級アルコールへの転換。添加するのがボランかホウ酸エステルかによって、選択性を全く逆転できる。面白いコンセプトです。

Gold-Catalyzed Synthesis of Aromatic Azo Compounds from Anilines and Nitroaromatics
Abdessamad Grirrane, Avelino Corma, and Hermenegildo Garcia
Science 322,1661(2008). DOI: 10.1126/science.1166401

 アニリン誘導体を金触媒で酸化し、アゾ化合物に変換する。Scienceに載ったんですが、そこまで凄いのか筆者には正直よくわかりません。

A Facile Deprotection of Secondary Acetamides
Stefan G. Koenig, Charles P. Vandenbossche, Hang Zhao, Patrick Mousaw, Surendra P. Singh and Roger P. Bakale
Org. Lett. ASAP DOI:10.1021/ol802482d

アセタミドを塩化チオニルで塩化イミドイルにし、プロピレングリコールで処理することでアセチル基の切断ができる。覚えておくと便利かも。

Versatile Pd(II)-Catalyzed C?H Activation/Aryl?Aryl Coupling of Benzoic and Phenyl Acetic Acids
Dong-Hui Wang, Tian-Sheng Mei and Jin-Quan Yu
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:ja10.1021/ja806681z

 安息香酸のオルト位をC-H活性化し、ビアリール結合を作る。ベンゾキノン、酸素が酸化剤として必要。

・全合成

Catalytic Enantioselective Silylation of Acyclic and Cyclic Triols: Application to Total Syntheses of Cleroindicins D, F, and C
Zhen You, Amir H. Hoveyda, Marc L. Snapper
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805338

 有機分子触媒を用いたメソ体ジオールの不斉シリル化を応用した全合成。基質をそれほど選ばずシリル化できる模様。

Biomimetic synthesis of the IDO inhibitors exiguamine A and B
Matthew Volgraf, Jean-Philip Lumb, Harry C Brastianos,Gavin Carr, Marco K W Chung, Martin Mu¨nzel,A Grant Mauk, Raymond J Andersen & Dirk Trauner
Nature Chem. Biol. 4, 535 (2008) doi:10.1038/nchembio.107

 toさんよりの情報。酸化度の高いアルカロイドのバイオミメティックな全合成。きれいに決まっています。

・その他

Isolation of Bicyclopropenylidenes: Derivatives of the Smallest Member of the Fulvalene Family
Rei Kinjo, Yutaka Ishida, Bruno Donnadieu, Guy Bertrand
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804372

高ひずみ化合物・ビシクロプロペニリデンの合成。個人的な趣味ですが何か。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 メチル化反応終了後、過剰の硫酸ジメチルを分解するために濃アンモニア水を加えたら、爆発が起きて容器が粉砕された。

硫酸ジメチルは安価なメチル化剤としてよく使われますが、皮膚浸透性・発癌性が強いので非常に危険な試薬です。皮膚に触れた場合には、薄いアンモニア水で丁寧に洗うのがよいとされます。しかし実験に大量に使った硫酸ジメチルに、うっかり大量の濃アンモニア水を加えると、爆発的反応が起こることがあります。反応性の高い試薬をつぶす場合には、薄い試薬を使って低温でゆっくりじっくり、が基本です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.274より)

 ☆館長の本棚

 創薬  20の事例に見るその科学と研究開発戦略(山崎恒義・堀江透編 丸善 7140円)

 これも資料として買った本ですが、大判で358ページの充実した内容です。サルバルサンの時代から、スタチン・降圧剤・免疫抑制剤などのブロックバスター群、そして抗体医薬に至るまで、甲斐はつんストーリーが事細かに示されていて勉強になりました。薬物代謝からの研究事例など、特に参考になるのではと思います。研究者自身が、どういう発想で取り組んだか、行き詰まった時に何を考えたかを記している点で貴重な本と思います。

 低分子医薬はかなり厳しくなりつつあるのが現状ではありますが、どこに突破口を見出すか、ひとつの参考になるのではないでしょうか。


 ☆編集後記

 先日のTrostのブリオスタチン全合成、今週のAggarwalによる三級アルコール不斉合成に続き、今度はSchrock&Hoveydaの不斉メタセシスがNatureに掲載されたようです(筆者はまだ中身は見てませんけど)。何だか一時期は有機化学はずっとNatureには無視されっぱなしでしたが、最近やたら載るようになってきた印象があります。

 生物学分野の友人に聞いたところによると、Nature本誌に載るのは他分野の研究者の興味をも引ける論文で、同じくらい重要であっても同業者にしか興味を持ってもらえない論文は姉妹誌(Nature Bichemistryとか)に回されるという基準があるとか。その意味だと、ブリオスタチンはともかく、三級アルコールとか不斉メタセシスとかはどうなのか……。Aggarwalのは凄い反応じゃありますけど、決して他分野にインパクトを与える類の論文ではない気がします。来年のNature Chemistry創刊に向けての布石として、化学分野の論文を優先的に載せるキャンペーン中、といったらうがった見方過ぎるでしょうか。

 というわけで、注目されている天然物の全合成とか、新しいコンセプトの反応ができたら、Natureに投稿してみるチャンスなのかもしれません。いやあ、外野席からは好き勝手なことが言えていいですね(笑)。

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