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 2008年第34号 もくじ

編集長のパソコンがようやくフル稼働できるようになりましたので、今回からふだんの編成で。まああまり変わってないだろという声もありますが。

有機化学美術館更新情報
本館:ロタキサン合成最近の話題
分館:告知・10月29日分子科学フォーラム
英語版:Joining turtle shells

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬

 ・ビス(2-メトキシエチル)アミノサルファートリフルオリド(Deoxo-FluorTM

 水酸基やカルボニル基、カルボン酸などの酸素官能基をフッ素に置換する試薬として、DASTが多用されてきた。しかしこの試薬は熱に弱く、90度以上で爆発を起こすことがあり、安全性に問題があった。DASTの2つのエチル基を2-メトキシエチル基に変えたDeoxo-Fluorは、酸素原子が分子内で硫黄に配位することにより熱安定性が高まっており、扱いやすいという特長がある。

 Deoxo-Fluorにより、1・2級アルコールはフッ化物へ、ケトンはgem-フルオリドへ変換される。カルボン酸は、0度程度の低温では酸フッ化物へ、85度程度まで加熱してやるとトリフルオロメチル基にまで置換される。酸フッ化物中間体を利用したアミドなどの合成、ヘテロ環合成などへの応用例も報告されている。

 Deoxo-Fluorは室温では黄色の液体で、水と激しく反応してフッ化水素を発生するので注意して取り扱う必要がある。THFやトルエンなどの溶液としても市販されている。

参考リンク:Scott Medicalカタログ(PDFファイル)


 ☆注目の論文

・全合成

A Synthesis-Driven Structure Revision of Berkelic Acid Methyl Ester
Philipp Buchgraber, Thomas N. Snaddon, Conny Wirtz, Richard Mynott, Richard Goddard, Alois Furstner
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803339

 スピロケタール構造を含む4環性骨格、カルボニルに挟まれた4級炭素などを含むBerkelic aicdの全合成と、構造の謎解き。

Total Synthesis of Aburatubolactam A
James A. Henderson, Andrew J. Phillips
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803593

 5つの二重結合を含むマクロラクタム構造を持つ、アブラツボラクタムの全合成。扱いづらそうな構造に見えますが、最後の方でTFA処理してたり、案外丈夫なんでしょうか。

Total Synthesis of (+)-Lepadin B: Stereoselective Synthesis of Nonracemic Polysubstituted Hydroquinolines Using an RC-ROM Process
Guillaume Barbe and Andre? B. Charette
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8068215

 パーヒドロキノリン骨格を持つアルカロイドを、メタセシスによる組み替えで構築。エレガントにしてパズル的。

・反応

Tetrabutylammonium Tetra(tert-Butyl Alcohol) Coordinated Fluoride as a Facile Fluoride Source
Dong Wook Kim, Hwan-Jeong Jeong, Seok Tae Lim, Myung-Hee Sohn
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803150

 TBAFの固体は極めて吸湿性が強く扱いづらいが、4当量のt-BuOHと結晶を作り、扱いやすいF-源となる。なかなか便利そうです。しかしちょっとした発見でも追究次第ではAngewandteに載ることもあるってことですね。

Potassiumt-Butoxide Alone Can Promote the Biaryl Coupling of Electron-Deficient Nitrogen Heterocycles and Haloarenes
Shuichi Yanagisawa, Kirika Ueda, Tadashi Taniguchi, and Kenichiro Itami
Org. Lett. ASAP DOI:10.1021/ol8019764

 ピラジンなど電子不足芳香環と、ヨウ化アリールとが、t-BuOKのみ、遷移金属触媒なしでクロスカップリングするという報告。ラジカル的に進行している証拠あり。今まで報告された遷移金属触媒C-H結合活性化によるクロスカップリングにも、この経路がからんでいる可能性ありとのこと。うーむ。

・超分子

Prominent Electron Transport Property Observed for Triply Fused Metalloporphyrin Dimer: Directed Columnar Liquid Crystalline Assembly by Amphiphilic Molecular Design
Tsuneaki Sakurai, Keyu Shi, Hiroshi Sato, Kentaro Tashiro, Atsuhiro Osuka, Akinori Saeki, Shu Seki, Seiichi Tagawa, Sono Sasaki, Hiroyasu Masunaga, Keiichi Osaka, Masaki Takata, and Takuzo Aida
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8030714

 ポルフィリン二量体に脂溶性・水溶性の長い側鎖をつけた化合物を設計。液晶状態をとり、電子伝達能を持つことを確認。といっても筆者にもよくわからない内容なのですが。相田先生のアイディアの湧き出しっぷりにはいつも驚かされます。


 ☆安全な実験のために

 ・0.5%の2-ブタノンを含む2-プロパノールが4年ほど保存されていたので、蒸留したところ終わり近くになって爆発した。

 エーテルが自己酸化によって過酸化物を作ることはよく知られていますが、実はアルコールも同じことが起こります。上記の例では、ケトンが光増感剤として働き、酸化を促進したと見られます。空間が大きいビンに長期間保存されていたアルコールは、酸化物の生成をチェックしてから使う方が無難でしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.80より)


 ☆館長の本棚

 入門ケミカルバイオロジー(入門ケミカルバイオロジー編集委員会編 1890円)

 これは迷わず推薦しましょう。大変よい本です。純粋な有機合成屋にとって、いつも横目で見つつ「あまりよくわからんな」と思っているジャンル・ケミカルバイオロジーについて、大変平易に書き下ろされています。糖鎖、抗体、イオンチャンネル、アフィニティクロマトグラフィなど、わかっているようでわかっていない事柄について基本的なことを知ることができ、これだけでも論文の読み方が変わるのではないかと思います。学部学生から読めるレベルですが、専門の研究者にとっても十分刺激的で、新しい方向性・アイディアを得られるかもしれない本です。


 ☆編集後記

 ということでノーベル賞発表の季節がやってまいりました。化学賞は8日夕方の発表だそうです。筆者も毎年この日には電話の前でじっと連絡を待っているのですが、なかなか来ないようです。そろそろノーベル賞はあきらめてベストジーニスト賞か何かに狙いを切り替えるかなとも思うのですが、そっちの方が遥かに無理かという気もします。
 まあそういう頭の悪い話はどうでもいいんですが、恐らく現役の研究者またはその予備軍である当メルマガ読者のみなさんは、いつかノーベル賞をもらえる可能性があるんですよね。まあ1%か0.01%かわかりませんが、ゼロではない。世の中の99.9%の人は全くの可能性ゼロですから、「自分にノーベル賞受賞の可能性がある」ってのは素晴らしいことだと思いません?すでに一線を退いて、可能性ゼロになってしまった身としては、ぜひみなさんに頑張っていただきたいと思う次第です。

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