〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第21号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報 本館:世界を変えた化合物(3)〜フェノール (08.6.25)
                 分館:「ロレンツォのオイル」のモデル死去 (08.6.21)


 ☆今週の反応・試薬 〜 tert-ブタンスルフィンアミド

 スルフィンアミドはスルホキシドなどと同じく硫黄原子上に不斉点を持つが、これが優れた不斉補助基として機能することをJ.Ellmanらが報告している。t-BuS(=O)NH2をカルボニル化合物と縮合させてイミドとし、ここにGrignard試薬やヒドリドなどの求核剤を作用させることで、簡単にNの隣に不斉点を持ったアミンが得られる。t-Buスルフィニル基は、塩酸-メタノールなどの酸処理によって簡単に脱離できる。

 求核剤としては前述のGrignard試薬やヒドリドの他、ニトリルやケテンシリルアセタールなども使用可能である。これによってα-アミノ酸、β-アミノ酸合成にも応用が可能である。天然物合成への応用例として、aphanorphineの全合成が報告されている。

 ※なかなか使い勝手がよさそうで、Evansオキサジリノン以来の優秀な不斉補助基ではないかと思います。他にも応用範囲は広いようなので、下記の文献など当たってみて下さい。

 参考リンク:東京化成TCIメール Ellmanによる総説(Pure Applied Chem.誌、PDFファイル)
 日本語の総説:有合化 63, 128 (2004)


 ☆注目の論文

・全合成

Synthesis and Reactions of the Pestalotiopsin Skeleton
Thomas M. Baker, David J. Edmonds, Deborah Hamilton, Christopher J. O'Brien, David J. Procter
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801900

 トランスシクロノネン骨格を持つペスタロチオプシンの全合成。4員環はSmI2、9員環はNHK反応で形成。

Synthesis and Evaluation of the Cytotoxicity of Apoptolidinones A and D
Victor P. Ghidu, Jingqi Wang, Bin Wu, Qingsong Liu, Aaron Jacobs, Lawrence J. Marnett, and Gary A. Sulikowski
J. Org. Chem. ASPAP  DOI:10.1021/jo800545r

 マクロライド全合成。クロスメタセシスによるビニルボラン合成、タリウムを用いる鈴木-宮浦カップリングが威力を発揮してます。この論文はフリーダウンロードですので、登録していなくても内容が閲覧可能です。

・反応

Ruthenium-Catalyzed Selective and Efficient Oxygenation of Hydrocarbons with Water as an Oxygen Source
Yuichirou Hirai, Takahiko Kojima, Yasuhisa Mizutani, Yoshihito Shiota, Kazunari Yoshizawa, Shunichi Fukuzumi
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801170

 ルテニウム-水錯体をCANで酸化し、オキソ錯体としたもので二重結合などをカルボン酸へと酸化できる。すなわち水を酸素源とした酸化反応が行える。いろいろ応用ができそうな反応です。

Zinc-Catalyzed Enantiospecific sp3-sp3Cross-Coupling of α-Hydroxy Ester Triflates with Grignard Reagents
Christopher Studte, Bernhard Breit
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800733

 α-ヒドロキシ酸エステルのトリフレートに、Grignard試薬をZnCl2存在下作用させると、ほぼ完全な立体反転で置換反応が起こる。乳酸やアミノ酸のような安い原料から不斉点のあるカルボン酸が効率よく合成でき、Evans法と並ぶ方法にもなりうるのでは。

Hydrogen-Free Homogeneous Catalytic Reduction of Olefins in Aqueous Solutions
Carina Gaviglio and Fabio Doctorovich
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo800302v

触媒量の[Fe(CN)5H2O]3-錯体とヒドロキシルアミンの組み合わせによってジイミドHN=NHを発生し、オレフィンを単結合へと還元する。原理は面白いけど、収率が低いケースが多いのが難。

Ruthenium-Catalyzed Azide?Alkyne Cycloaddition: Scope and Mechanism
Brant C. Boren, Sridhar Narayan, Lars K. Rasmussen, Li Zhang, Haitao Zhao, Zhenyang Lin, Guochen Jia, and Valery V. Fokin
J. Am. Chem. Soc. ASAP; DOI:10.1021/ja0749993

通常の銅塩を使うのではなく、ルテニウム錯体を用いるクリック反応。銅とは違った選択性になり、相補的に使える。

・超分子

Ranging Correlated Motion (1.5 nm) of Two Coaxially Arranged Rotors Mediated by Helix Inversion of a Supramolecular Transmitter
Shuichi Hiraoka, Erika Okuno, Takaaki Tanaka, Motoo Shiro, and Mitsuhiko Shionoya
J. Am. Chem. Soc. ASAP  DOI:10.1021/ja8014583

3段重ねの分子ボールベアリングによる「分子トランスミッター」。原理は一口には解説できないのですが、絵を見ているだけでも楽しい。以前紹介した「最新分子マシン」(化学同人)などにも解説があります。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 過酸化ベンゾイルをアセトンから再結晶し、遠心分離器で溶媒を振り切っていたら爆発が起こった。

 過酸化ベンゾイルはラジカル開始剤として汎用されますが、実際には危険性の高い試薬の一つです。アセトンやエーテルなど過酸化物を作りやすい溶媒から再結晶すべきではありませんし、無理に乾燥させると爆発の危険が高まります。この化合物の誘爆傾向はTNTよりも強いとのことですので、気をつけて取り扱うべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p92より)


 ☆館長の本棚

 動かして実感できる三次元原子の世界 (奥健夫著 工業調査会)

 CD-ROMで分子の3次元構造を見られる本。DNAやクロロフィルなんかもありますが、GaAsとかジルコニアとかの結晶構造が多いです。フルカラーなのとデータつきなのがうらやましいところですが、「無機化学美術館」というところでしょうか。分子のビューアとしてはAccelrys社の「Discovery Studio Visualizer」が付属してますので、これだけでも入手の価値あり。
 しかし「三次元原子」ってタイトルはどうなんですかね……。


 ☆編集後記

 ブログ「気ままに有機化学」を運営しておられる「よっちゃん」さんが、ChemPortというサービスを開始されました。有機化学系のブログの更新情報、リンク集がコンパクトにまとまっており、大変便利です(うちのブログも収録していただいてます)。みなさまもブックマークしてはいかがでしょうか。僕のところももうちょっとデザインその他なんとかせねばと思いつつ、そのままになってます(^^;。

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