〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第19号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

 有機化学美術館更新情報
本館:世界を変えた化合物(2)〜ドーパミン
分館:最後の怪物・マイトトキシン攻略開始(6/7) 「化学物質はなぜ嫌われるのか」25日発売(6/10)


 ☆今週の反応・試薬 〜 Chan-Evans-Lam縮合

 1997年、Chanら・Evansら・Lamらは、アリールホウ酸とフェノール、またはアミン・チオールなどが銅塩の存在下縮合反応を起こすことを同時に見出し、報告した。形式としては、前号で取り上げたUllman縮合のハロゲン化アリールの代わりにアリールホウ酸を用いる反応である。

 Ar-B(OH)2 + Ar'-XH → Ar-X-Ar'
(X=NR,O,S)

 基質としては、アミン・アミドの他、ピロールやイミダゾールなどの含窒素ヘテロ環なども使用可能である。溶媒は塩化メチレン、銅塩としては酢酸銅(II)が最もよい。多くの場合トリエチルアミンまたはピリジンを過剰量、酢酸銅は1〜2当量用いることが多い。

 この反応は空気中の酸素が銅を再酸化することで進行するので、不活性ガス雰囲気下などで行うべきではない。激しく撹拌して空気を取り込むことにより効率が上がる(このため実験スケールによって効率が変化することがある)。また酸素が逃げてしまうため、加熱すると逆に反応性が落ちる。酸素を吹き込みながら行う処方もあるが、溶媒が飛びやすいので注意しなければならない。また水分を除くため、モレキュラーシーブスを添加することもある。詳細については、こちらの総説を参照。

 ※収率がすごくよい反応ではないですが、室温で気楽にできるので、終夜実験でいくつか並べて回しておくなんてのに最適な反応です。銅塩はろ過で除き、希アンモニア水で振ると残存銅塩が抜けやすくて便利です。


 ☆注目の論文

・全合成

Dynamic Stereochemistry Transfer in a Transannular Aldol Reaction: Total Synthesis of Hypocrellin A
Angewandte Chemie International Edition Early View DOI:10.1002/anie.200800734
Erin M. O'Brien, Barbara J. Morgan, Marisa C. Kozlowski

 アトロープ異性を持つペリレン骨格化合物の全合成。ちょっとパズルみたいです。

・反応

PdII-Catalyzed Monoselective ortho Halogenation of CbondH Bonds Assisted by Counter Cations: A Complementary Method to Directed ortho Lithiation
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI:10.1002/anie.200705613
Tian-Sheng Mei, Ramesh Giri, Nathan Maugel, Jin-Quan Yu

芳香族カルボン酸のオルト位水素をパラジウムで活性化し、IOAcでヨウ素を導入する。DMFの添加がポイント。この中間体ができるなら、もっといろいろな反応に生かせそうな気がしますがどうなんでしょうか。

Catalytic Enantioselective Allyl- and Crotylboration of Aldehydes Using Chiral Diol?SnCl4Complexes. Optimization, Substrate Scope and Mechanistic Investigations
Vivek Rauniyar, Huimin Zhai, and Dennis G. Hall
J. Am. Chem. Soc. ASAP; DOI:10.1021/ja8016076

アルデヒドとアリルボラン・クロチルボランの不斉付加反応。四塩化スズにC2対称のジオールをリガンドとして乗せたものが触媒。山本尚の「Lewis acid assisted Bronsted acid」のコンセプト。

One-Pot Oxidative Esterification and Amidation of Aldehydes
Kekeli Ekoue-Kovi, Christian Wolf
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200800353

 アルデヒドからエステル・アミドへのワンポット変換の総説。覚えておくといざという時便利かも。

・超分子

Asymmetric [2 + 2] Olefin Cross Photoaddition in a Self-Assembled Host with Remote Chiral Auxiliaries
Yuki Nishioka, Takumi Yamaguchi, Masaki Kawano, and Makoto Fujita
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja802818t

 不斉要素を持たせたケージ内で光[2+2]付加反応を行い、50%eeで付加体を得た。何でも起こる魔法の空間ですね。

・その他

Imaging of Conformational Changes of Biotinylated Triamide Molecules Covalently Bonded to a Carbon Nanotube Surface
Eiichi Nakamura, Masanori Koshino, Takatsugu Tanaka, Yoshiko Niimi, Koji Harano, Yuki Nakamura, and Hiroyuki Isobe
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8022708

 カーボンナノホーンの先端にビオチン分子を取りつけ、電子顕微鏡で観察。コンフォメーション変化を観測することに成功した。今まで化合物の分析データというのはNMRにしろX線解析にしろ、たくさんの分子の集合体を相手にするしかなかったわけですが、ここに来て1分子の姿を見ることができるようになったわけで、まさに画期的だと思います。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 アルミニウム粉末と四塩化炭素を混合してペースト状にしていたら、建物が倒壊するほどの爆発を起こした。

 あまり知られていませんが、アルミニウムは塩素系溶媒と爆発性の混合物を作ります。塩素系溶媒は安定なイメージがありますが、金属とは時に激しく反応することがあります(ナトリウムなど)。うっかり混ぜないよう気をつけましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p126より)


 ☆館長の本棚

新しい薬をどう創るか―創薬研究の最前線 (京都大学大学院薬学研究科編 講談社 1040円)

 京都大学の編集による、新薬創出の現在についての本です。CADDやコンビケム、DDSや抗体医薬・ゲノム創薬といった範囲にまで話が及んでおり、一班向けの本ではありますが相当に踏み込んだ内容になっています。個人的にはアルツハイマー治療剤アリセプトの生みの親・杉本八郎教授自身による開発物語が面白かったです。それにしてもあらゆる技術が進んでいるのに、医薬創出というゴールが遠ざかる一方であるのは一体何なのでしょうね。


 ☆編集後記

 すでにこちらこちらなどでも紹介されている通り、JACSβというプロジェクトが動き出しました。ウェブの特性を生かしたインタラクティブなコンテンツを発信して行こうということのようで、成り行きが注目されます。ジャーナル間の競争ということも背景にあるのかも知れません。さて我が日本はどうなっているかというと、うーんという感じもしないではないのですが。

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