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↑NatureChemistry、いよいよ発刊目前!

 2009年 第12号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報: (分館)世界で一番硬い物質


 ☆今週の反応・試薬

 ・Kornblum酸化

 活性なアルキル臭化物を、DMSOで酸化して対応するカルボニル化合物へ変える反応。臭化ベンジル、α-ブロモケトンなど活性な臭化物は、炭酸ナトリウムなどの塩基と共にDMSOに溶解するだけで酸化が進行する。

 反応はDMSOの酸素原子が求核攻撃し、アルコキシスルホニウム塩となったところで塩基が酸素のα位のプロトンを引き抜き、分解してカルボニル化合物とジメチルスルフィドを与えるというものである。この中間体以降の反応は、Swern酸化と同じ原理である。

 活性の低いハライドを用いる場合には、銀トシラートを用いて活性なアルキルトシラートとしてからDMSO酸化する方法もある。ただしこの場合、ハロゲン化水素の脱離によるオレフィンの生成などの副反応が起こることがある。またアミンオキシドを酸化剤として使う変法などもある。

※立体障害にもいまいち弱かったり、制限もある反応ではあります。しかし記憶しておく価値はあるでしょう。

 参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 p250


 ☆注目の論文

・反応

An Efficient Enantioselective Method for Asymmetric Friedel?Crafts Alkylation of Indoles with a,b-Unsaturated Aldehydes
Liang Hong, Lei Wang, Chao Chen, Bangzhi Zhang, and Rui Wang
Adv. Syn. Catal. Early View DOI:10.1002/adsc.200800710.

 プロリン系の有機分子触媒を用いた不斉Friedel-Crafts。インドール以外だとどうなのか気になるところですが。

Devising Boron Reagents for Orthogonal Functionalizationthrough Suzuki?Miyaura Cross-Coupling
Mamoru Tobisu and Naoto Chatani
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI:10.1002/anie.200900465

 連続鈴木-宮浦カップリングのための各種手法。

One-Pot o-Nitrobenzenesulfonylhydrazide (NBSH) Formation#Diimide Alkene Reduction Protocol
Barrie J. Marsh, and David R. Carbery
J. Org. Chem., Article ASAP DOI:10.1021/jo900237y

 ニトロベンゼンスルホニルヒドラジドの分解によってジイミドHN=NHを発生させ、オレフィンを還元する。使えるかな?

Pd(II)-Catalyzed Olefination of Electron-Deficient Arenes Using 2,6-Dialkylpyridine Ligands
Yang-Hui Zhang, Bing-Feng Shi, and Jin-Quan Yu
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP ? DOI: 10.1021/ja900327e

 メタ位を活性化するC-H activation登場。リガンドの工夫によるようですが、びっくりですね。

・全合成

Total Synthesis of Ciguatoxin
Akinari Hamajima and Minoru Isobe
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI:10.1002/anie.200805996

 ごっついのが来ました。Nicholas反応をフルに活用したシガトキシン全合成です。随所にこだわりが感じられる、磯部先生ならではの仕事と思います。最敬礼。

A First Total Synthesis of Ganglioside HLG-2
Yuki Iwayama, Hiromune Ando, Hideharu Ishida, and Makoto Kiso
Chem. Eur. J. Early View DOI:10.1002/chem.200802706

 糖鎖合成には詳しくないのですが、なるほどこうやるものか、と思いつつ拝読。

Asymmetric total syntheses of (1)-and(2)-versicolamide B and biosynthetic implications
Kenneth A. Miller, Sachiko Tsukamoto and Robert M. Williams
Nature Chemistry 1, 63 (2009) DOI: 10.1038/NCHEM.110

 Nature Chemistry誌、全合成の第1号論文(かな?)。フリーでPDFが閲覧可能です。今は創刊記念でいろいろフリーダウンロード可能ですので、いろいろ見ておいてはどうでしょう。

Total Synthesis of Vinblastine, Vincristine, Related Natural Products, and Key Structural Analogues
Hayato Ishikawa, David A. Colby, Shigeki Seto, Porino Va, Annie Tam,
Hiroyuki Kakei, Thomas J. Rayl, Inkyu Hwang, and Dale L. Boger
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP ? DOI: 10.1021/ja809842b

 ビンブラスチン・ビンクリスチン全合成。筆者ごときの解説は必要ないでしょう。読み応えあり。

・その他

1,1,8,8-Tetramethyl[8](2,11)teropyrenophane: Half of an AromaticBelt and a Segment of an (8,8) Single-Walled Carbon Nanotube
Bradley L. Merner, Louise N. Dawe, and Graham J. Bodwell
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI:10.1002/anie.200806363

 大きく湾曲した多環芳香族炭化水素のシクロファン合成。ナノチューブ化学合成への一歩か。

・医薬

 Big Interest in Heavy Drugs
Katherine Sanderson
NatureNews DOI:10.1038/458269a

 医薬品が代謝を受ける位置の水素原子を、重水素に置き換える手法が出てきたとのこと。重水素効果で反応性が低いため、代謝が遅くなるのだとか。既存の医薬にDをくっつけただけで新薬と言い張るのはちょっと特許性に問題があるかもということですが、製薬企業のみなさんは頭に入れておいてもいい手法では。しかし、ここまでやるかという感じはありますね。


※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 偶数個の炭素を持つフルオロアルカン、奇数個の炭素を持つω-モノフルオロ脂肪酸、ペルフルオロイソブチレンなどは強い毒性を持つ。

 モノフルオロアルキル基を持つ化合物は、代謝によって猛毒のモノフルオロ酢酸を発生することがあります。フッ素を含む化合物はフロンのように人体に全く無害なものもある一方、上記のように思わぬものが猛毒であることがあり、一般に予測が困難です。気をつけて扱うに越したことはありません。こちらもご参考に。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.249より)

 ☆館長の本棚

 ライフゲイムの宇宙 W. パウンドストーン著 日本評論社 3885円

 「ライフゲーム」というのをご存知でしょうか。あるいは点がチカチカしているスクリーンセーバーなどで、それと知らずにご覧になっている方も多いのではと思います。初期配置のピクセルが、一定の規則に従って点いたり消えたりを繰り返すだけのゲーム(今いう「ゲーム」の観念とはだいぶ違いますけど)ですが、驚くほど奥が深く、数学的にも興味ある研究対象になるほどのものです。

 この本はそのライフゲームの様々なパターンを紹介しつつ、間に宇宙論・熱力学・生命の定義といった話題をはさみながら進行する形式をとります。著者パウンドストーンの知識は驚くほどのもので、多分野にわたる著作をものし、「ビル・ゲイツの面接試験」「選挙のパラドクス」など多くの話題作があります。この本も密度濃く、ライフゲームという単純なゲームを手がかりに宇宙の秘密へ迫って読者をワクワクさせます。

 科学書としては鉄板の名著です。少々お高いですが、幸い中古が比較的安く手に入るようですので、手に取ってみてはいかがでしょうか。


 ☆編集後記

 WBCはみごと日本の2連覇となりました。正直今回は厳しいかと思ってましたが、アメリカ・キューバ・韓国を降しての世界一だから文句なしでしょう。まあなんで9戦中5戦が韓国だったんだ、というのはすごく疑問ですけど、おかげで決勝に至るまでの心理戦が見られたともいえますね。

 選手層だけからいえばアメリカやプエルトリコ、ドミニカなんかも強いはずですが、ずいぶんWBCに賭ける熱意の差があったようで。このへんワールドカップが文句なしの頂点にいるサッカーとは違うところで、次回は熱くなった彼らとの勝負が見たいところです。

 しかし思うのは、いかに世界から素晴らしい選手がメジャーリーグに流れ込んでるかということですね。資金・環境・超一流と対戦できる喜びがあれば、誰しもアメリカを目指すわけで。このへん、研究分野でのアメリカの強さと根は一つなのでしょう。

 さて個人的なことになりますが、筆者は4月から再び定職に就いて働くことになりました(そのうちブログででも書きますけど)。そちらに時間を取られますので、メルマガの方にどれだけ時間を割けるかちょっとわかりません。しばらくの間不定期刊とさせていただきたく思いますが、あしからず。
 新しい職場はどんな感じかちょっとわかりませんが、今まで培ったものを生かして、精一杯がんばりたいと思います。学会など顔を出すこともあると思いますので、その時は声をかけてやって下さい。

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