Molecule of the Week (30)

ポリカーボネート(PC)樹脂

 プラスチックの発明物語には、しばしば偶然の発見(セレンディピティ)の要素がつきまといます。このポリカーボネートもまた、偶然と幸運が味方しなければその誕生はありませんでした。

 ポリカーボネートを発見したのはアメリカGE社の研究員Daniel Fox博士で、1953年のことでした。彼は同僚との雑談中、「加水分解を受けないポリエステルがあれば」という発言を聞き、心に思い当たることがありました。彼はしばらく前の研究で、炭酸エステル(カーボネート)という結合が意外に分解されにくいことを経験していたのです。

 彼はさっそく試薬庫に走り、その時に使ったグアイアコールという化合物が2つつながった形の試薬を探しました。しかしそれは見当たらなかったので、彼は似たような構造でたまたま在庫があった「ビスフェノールA」という化合物を使って様子を見てみることにしました。実はこの選択が、彼にとって決定的な幸運だったのです。

ビスフェノールA

 こうして初めて作られたポリカーボネート樹脂は驚くほど硬く丈夫で、フラスコを割って取り出さねばならず、ハンマー代わりに使えるほどでした。この樹脂はガラスのように透明で熱にも強いなど極めて優れた性質を併せ持っており、現在極めて広い用途が拓かれています。耐衝撃性を買われて車のバンパーやテールライト、要人を守る防弾ガラスやヘルメット、電気的性質を生かしてCD・DVDやノートパソコン・携帯電話などにも用いられ、我々がポリカーボネート製品を見かけない日はまず一日もありません。

 ただしこの原料であるビスフェノールAは環境ホルモン作用があるのではないかという疑惑がかけられており、事実とすればポリカーボネートは哺乳瓶・虫歯の詰め物などにも用いられているので非常に問題となります。最近の詳細な検討によれば「人体に害を与える可能性は極めて低い」とされていますが、例によってこうした問題は完全な「シロ」という実証が難しく、議論はまだまだ続きそうです。

 最近、ポリカーボネートに代わり、ポリ乳酸(トウモロコシなどの植物原料から作られ、使用後は土の中で徐々に分解されて堆肥になるプラスチック)で作ったパソコンやDVDが登場しています。ポリカーボネートが素晴らしいプラスチックであることは論を待ちませんが、化石燃料から作られ、最後は埋め立てか二酸化炭素を排出するしかない運命であるのは事実です。持続可能な循環型社会の実現に向けて、こうしたアプローチが今後重要性を増してくることは間違いないと思われます。

 

 関連項目:ニュースの中の化学物質

 リンク:ポリカーボネートマガジン ポリカーボネート(wikipedia)

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