Molecule of the Week (2)

 花時計を思わせる美しい分子ですが、驚いたことに人工ではなく天然から得られた化合物です。2001年に東大のグループにより、テロメラーゼという酵素の働きを止める化合物(阻害剤)として、放線菌の産物から発見されました。テロメラーゼは通常の健康な細胞にはほとんど存在せず、悪性のガン細胞でのみ作られてその無制限な増殖を助けています。この働きを食い止めるテロメスタチンは、副作用の少ない新しい抗ガン剤につながる化合物として注目を集めています。

 テロメスタチンは、セリン、スレオニン、システインから成る環状のペプチドを経由して作られていると考えられます。また対称性の高い(正確には対称ではありませんが)美しい骨格を持っているのは偶然ではなく、テロメラーゼ阻害作用に深い関係があるらしいこともわかっています。このように、自然界からは時として思わぬ構造の化合物が見つかり、その作用機序を探っていくことで生命の思いもかけぬ作用が発見されることが少なくありません。これもまた天然物化学というジャンルの、大きな醍醐味といえるでしょう。

 

 J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 1262 K. Shin-ya et al.

 ibid. 2002, 124, 2098 M-Y. Kim et al.

 

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