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 2008年第35号 もくじ

有機化学美術館更新情報
分館:2008年ノーベル化学賞 

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬

 ・N,N'-カルボニルジイミダゾール

 白色粉末、融点119度。DMF,THF,塩素系溶媒などに広く可溶。水分によって分解するので、湿気に気をつけて取り扱う。ホスゲンとイミダゾールから合成できるが、試薬として広く入手可能である。アミド縮合、ウレア・カルバメート合成などに広く用いられる。


CDI

 イミダゾールは酸性・塩基性のいずれでもよい脱離基となりうる。カルボン酸と1当量のCDIを適当な溶媒中で混合するとN-アシルイミダゾールとなる。ここに一・二級アミンを加えると置換反応が起き、アミド縮合が行える。アミノ酸の縮合に用いてもラセミ化は少ないが、注意深く湿気を防がないと収率の低下につながる。
 また中間体のアシルイミダゾールは単離可能で、LAH還元するとアルデヒドを、Grignard試薬を加えるとケトンを与える。ただしこの目的には、Weinrebアミドを用いた方が確実である。

 2当量の一級アミンと反応させると対称ウレアが得られる。二級アミンでは一般に一方だけで反応が停止し、対称ウレアは得られない。1当量ずつ別のアミンを加えれば、非対称ウレアが得られる(……が、一度やってみたらあまりうまく行かなかった記憶が)

 同様に、アルコールと反応させることで炭酸エステル・カーバメートの合成に用いられる。アルコールとCDIの反応の際には、触媒量の塩基(NaOEtなど)を加えると反応が劇的に加速する。

 ※ホスゲン代わりに使えて便利な試薬ですが、古くなるといまいちなことが多い気がします。小瓶で買って、古いやつを残さない方がよいのではと思います。


 ☆注目の論文

・全合成

Total Synthesis of Potent Antitumor Agent (-)-Lasonolide A: A Cycloaddition-Based Strategy
Arun K. Ghosh, Gangli Gong
Chem. Asian J 2008, 3, 1811 DOI: 10.1002/asia.200800164

 マクロライド全合成。非常にオーソドックスで、多くの基本反応が出てきますので、セミナーなどによい題材では。

・反応

Asymmetric Mukaiyama Aldol Reaction of Nonactivated Ketones Catalyzed by allo-Threonine-Derived Oxazaborolidinone
Shinya Adachi and Toshiro Harada
Org. Lett. ASAP DOI:
10.1021/ol802087u

 スレオニン由来の有機分子触媒で行う向山アルドール反応。芳香族ケトンを用い、収率はそこそこだが不斉収率はかなり高い。

A Very Simple Copper-Catalyzed Synthesis of Anilines by Employing Aqueous Ammonia
Ning Xia, Marc Taillefer
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802569

 銅触媒を用い、臭化アリールとアンモニア水から直接アニリンを合成。ちなみにこの論文の序文によると、ハーバー=ボッシュ法によって生産されるアンモニアは年間1億トン、人類が費やすエネルギーの1%はこのアンモニア生産に使われるそうです。内容と直接関係ないトリビアを盛り込む著者の態度に、個人的に萌え。

L-Selectride-Mediated Highly Diastereoselective Asymmetric Reductive Aldol Reaction: Access to an Important Subunit for Bioactive Molecules
Arun K. Ghosh, Jorden Kass, David D. Anderson, Xiaoming Xu, and Christine Marian
Org. Lett. ASAP DOI:
10.1021/ol801971t

 L-selectride(LiB(s-Bu)3H)を用いる還元的アルドール反応。特殊な基質でしか進行しない反応と思いますが、こんな形式の反応もあるのか、と思ったもので。

・その他

Oxatriquinane and Oxatriquinacene: Extraordinary Oxonium Ions
Mark Mascal, Nema Hafezi, Nabin K. Meher, and James C. Fettinger
J. Am. Chem. Soc., 130 (41), 13532–13533, 2008. 10.1021/ja805686u

 異常に安定なオキソニウムイオンの合成。オキソニウムイオンといえばMeerwein試薬などの不安定で扱いづらいイメージしかないのですが、水中で72時間加熱還流しても壊れないほど安定とのこと。こちらも参照。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 ・狭い部屋で液体窒素のタンクを倒してしまい、窒素が急激に気化して酸欠状態となって学生が死亡した。

 日本でも数年前に、部屋を冷やすために液体窒素をまいていた学生が酸欠で亡くなる事故がありました。液体窒素は気化すると体積が700倍にも増えるため、狭い部屋では急激に酸素分圧が低下します。ショックで意識を失い、そのまま亡くなるケースが多いとのことです。これはやってしまいがちな事故と思います。気をつけましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.6より)


 ☆館長の本棚

 アストロバイオロジー―宇宙が語る〈生命の起源〉 (岩波科学ライブラリー 147) 1365円

 最近生命の起源ものに凝っております。生命を形作るアミノ酸、核酸などの分子は宇宙からやってきたのか?タンパク質はDNAの情報を元に作られるが、DNAはタンパク質なしに合成されない。この両者は、どちらが先に生まれたのか?生命の誕生は深い謎とロマンに包まれていますが、科学はその究極の謎にも迫ろうとしています。この分野の第一人者が、現在の研究状況を平易に、読みやすいボリュームで書き下ろしています。このジャンルに興味のある方は必見です。


 ☆編集後記

 ちょっとは専門的でない話も入れてほしいというリクエストにお応えして、ショートエッセイでも書いてみることにします。といっても1回目はあまり柔らかくない話ですが(笑)。

 今年は日本人4人(アメリカ在住の先生も含め)がノーベル賞を受賞するという記念すべき年となりました。化学賞は発表当日当日、やたらブログのアクセスが上がったので朝4時までかかって1本書きましたとも。努力の割にまとまりが悪いですけどね。
 しかし物理学賞の3名同時受賞は驚きでした。日本の科学のレベルを示せたことは、非常に喜ばしいことと思います。ただ必要以上に待たされすぎだったとは思いますが。南部先生なんかは30年早くもらうべきだったのでしょう。このへん、竹内薫氏の分析が非常に面白いです。

 今後もカーボンナノチューブの飯島澄男教授、免疫学の審良静男教授、そしてiPS細胞の山中伸弥教授など、日本人には有力な候補がたくさん揃っています。もちろん有機化学、医薬分野でも、もらっておかしくない先生がたくさんおられるのはみなさんもご存知の通りです。しばらくは日本勢の進撃は続くのではないかと思います。

 今のところ日本は様々な不利にも関わらず、ノーベル賞の自然科学3賞受賞者が12人と、アジアではダントツです。ただこれが20年、30年後にはどうなってるんでしょうか。アメリカに留学した人の話を聞くと、中国や韓国の留学生の頑張りっぷりは凄まじいといいます。今ノーベル賞をもらっている60代から70代の日本の先生たちは、数十年前にそうやって頑張り抜いてきた人たちなのだと思います。そうなると、いつか抜かれる日も来てしまうのかもな、と。

 ノーベル賞が出てお祭り騒ぎになる一方で、理科離れは相変わらず着々と進んでいるようです。やはり底辺が拡がらないと頂点も高くならないのは自然の理で、ここのところには危機感を持たなくてはいけないだろうと思います。理系はただでさえしんどくて暗く、大して儲からないイメージを持たれてますから……。
 若貴ブームに浮かれて改革を怠り、優秀な若者が寄りつかなくなってモンゴルや欧米勢に席巻されてしまった相撲界、WBC制覇に喜びすぎてライバルとの力関係を見誤り、五輪で惨敗を喫した野球界の轍を、日本の科学界には踏んでほしくないなと思う次第です。

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