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 2008年第28号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:分館 セルロースから直接バイオ燃料を合成


 ☆今週の反応・試薬 ~ Parikh-Doering酸化

 DMSOを酸化剤とし、一・二級アルコールを対応するアルデヒド・ケトンに変換する反応。DMSO酸化の活性化剤は多数知られているが、この反応ではSO3・ピリジン錯体を用いる。比較的実験操作が簡単であること、メチルチオメチルエーテル生成などの副反応が起こりにくいことなどが特徴である。

 条件としてはSO3・ピリジン錯体を3当量、トリエチルアミンを5当量、DMSOを5当量などといずれも過剰に用いる事が多い。窒素など不活性ガス雰囲気下、塩化メチレン溶媒を用い、氷冷から室温程度で進行する。

 ※DMSO酸化はたくさん種類がありますが、筆者は個人的にこれが一番好きです。Swernは終わるまでわからないですが、これは途中で行かなければ試薬を足したりできるところがよいです。Swernスプラッシュ(最後にトリエチルアミンを滴下するときにガスが発生して噴出)の大惨事を何度か目の当たりにしているせいもあり、操作的に楽ちんなParikh-Doeringが気楽です。まあ試薬はその分高いですけど。


 ☆注目の論文

・全合成

Toward an Efficient Synthesis of Taxane Analogs by Dienyne Ring-Closing Metathesis
María J. Aldegunde, Luis Castedo, and Juan R. Granja
Org.Lett. ASAP DOI:
10.1021/ol801469h

 タンデムメタセシスにより、ジエンイン化合物から一気にタキサン骨格の構築に成功。昔の苦労を知る身には、そういうアプローチもあるのかと驚きです。

Enantioselective Total Syntheses of Nankakurines A and B: Confirmation of Structure and Establishment of Absolute Configuration
Bradley L. Nilsson, Larry E. Overman, Javier Read de Alaniz, and Jason M. Rohde
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:
10.1021/ja804624u

 aza-Prins反応を用いた含窒素4環性骨格の構築。メインの大技はもちろん、しょっぱなでのエンインメタセシスなど小技も見せます。こちらも参照。

・反応

Intermolecular Enolate Heterocoupling: Scope, Mechanism, and Application
Michael P. DeMartino, Ke Chen, and Phil S. Baran
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:
10.1021/ja804159y

 Evans不斉補助基を用いた、エノラート同士の酸化的クロスカップリング反応。2,3-二置換コハク酸や、γ-ラクトンなど医薬にも頻出する構造が容易に合成できる。

・その他

Coupling Across a DNA Helical Turn Yields a Hybrid DNA/Organic Catenane Doubly Tailed with Functional Termini
Liu, Y.; Kuzuya, A.; Sha, R.; Guillaume, J.; Wang, R.; Canary, J. W.; Seeman, N. C.
J. Am. Chem. Soc.; 2008; 130(33); 10882-10883.  DOI: 10.1021/ja8041096

 DNAナノテクノロジーの第一人者Seeman教授の新作。DNAを使った知恵の輪のようなカテナン合成。

Isolation and Structural Characterization of Capistruin, a Lasso Peptide Predicted from the Genome Sequence of Burkholderia thailandensis E264
Thomas A. Knappe, Uwe Linne, Séverine Zirah, Sylvie Rebuffat, Xiulan Xie, and Mohamed A. Marahiel
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:
10.1021/ja802966g

 ペプチドのN端と側鎖のカルボン酸がマクロラクタムを作り、その環の中にC端が尻尾を突っ込んだ「投げ縄ペプチド」の発見。ゲノム配列からこのペプチドの存在を予測し、単離に成功したとのこと。

Remarkably Short Metal-Metal Bonds: A Lantern-Type Quintuply Bonded Dichromium(I) Complex
Yi-Chou Tsai, Chia-Wei Hsu, Jen-Shiang K. Yu, Gene-Hsiang Lee, Yu Wang, Ting-Shen Kuo
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801286

 クロム-クロムの五重結合(!)。Cr-Cr間の距離は1.74オングストロームと、知られている金属-金属結合中最短。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 Raneyニッケルで接触還元を行った後、ろ紙に触媒が残っていたが少量だったので気にせずに捨てたら、夕方になってゴミ箱が発火した。

 Raneyニッケルは水素化・脱硫の触媒として常用されますが、作り方やロットによって活性に差があり、元気なものは火がつきやすいという難点があります。特に処理の際には水を置いておくこと、可燃溶媒を遠ざけておくこと、できれば窒素ガスを吹きかけながら処理することなどが重要です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p256より)


 ☆館長の本棚

 世界で一番売れている薬 (山内喜美子著 小学館 1680円)

 現在世界で年間3兆円以上を売り上げる、史上最大の医薬・HMG-CoA阻害剤の誕生物語です。元祖スタチン・ML-236Bの生みの親である、遠藤章博士の苦闘と執念を描きます。どのような経緯でスタチンは見つかったのか、なぜ遠藤博士は成功を目の前にして三共を去ったのか、なぜ製品化でメルクに先を越されたのか。単純な成功物語でないだけに、いろいろなことを考えさせます。第13回小学館ノンフィクション大賞受賞作。


 ☆編集後記

 上記の本を読んで改めて思うのは、薬なんてのは誰が見ても完璧なものなどはなく、思い入れのある人が無理やり押し上げるしかないものだなあということです。メバロチンは結果としてみれば非常に安全性の高いよい薬ですが、それでも何度も消えかかっているわけで。バイオベンチャーみたいな小さなところから意外に薬が出て、大企業が2010年問題に苦しむのは案外このあたりにあるのかもという気もします。巨大メーカーは多くのプロジェクトを抱えているせいで、ひとつのプロジェクトを何としても押し上げようという執念が薄れているのかもしれません。製薬会社は合併してリスクを分散したつもりが、逆にリスクを増やしているのかもしれないな、なんぞと思った次第です。ま、もはや部外者なんで勝手なことを言うわけですけど(笑)。

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