☆続・フラーレンの話

 以前、バックミンスターフラーレンという炭素が60個集まったサッカーボール分子の話をしました。しかし実は炭素はC60以外にも多彩な多面体を作ることが知られています。今回はその話を。

 KrotoやSmalleyらによってフラーレンが発見された折、実験条件によってC60以外にもC70,C76,C78,…などが得られることがすでにわかっていました。解析の結果、これらはC60同様5員環と6員環から成る、大型のフラーレン類であることが明らかにされました。ただし、これら高次フラーレン類はC60のような完全な球形ではなく、ラグビーボールのような楕円球です。

  

C70(左)とC84(右)

 現在C96までの高次フラーレンが単離されていますが、面白いことに6員環の数はどんどん増えて行くのに5員環は必ず12個と決まっています(これは「オイラーの定理」という、純粋に数学的な原理から決まります)。また、ひずみが集中するためか、5員環同士が隣り合うことは決してありません。また、これらの制約を取り入れても、炭素原子の数が増えると理論的に可能な異性体はどんどん増えて行くのですが、実際に得られるのはほんの一部でしかありません。例えば、C88では理論上は35通りの多面体が考えられるのですが、今のところ得られているのはたった1種類だけです。このあたりをうまく説明できる理論を求めて、現在世界中で精力的に研究が進められているところです。

 ところで今フラーレンに含まれるのは5,6員環だけといいましたが、例えば7員環を含むフラーレンというのは考えられないのでしょうか?実際には単離されていませんが、コンピュータ上の計算では安定に存在し得ることが示されています。7員環が入ると負曲率、つまり凹んだ表面を持つフラーレンができることになります。下にドーナツ状フラーレンC200(架空の分子)の折り紙による模型を示します。

C200・ドーナツフラーレン

 これまではグラファイトにレーザーを当ててC60と共に生成するフラーレン類の話でしたが、安定かつ大量に得られるC60に人工的に手を加えて新しい分子を創造する研究も数多くなされています。こういったC60の有機化学は現在成熟の域に入りつつありますが、最近になって格段に面白い反応が発見されたので紹介しておきます。

 京大の小松らのグループはC60と青酸カリと粉砕用鉄球を鋼鉄のカプセルに入れて、毎分3500回の高速振動を与えるという実験を行ないました(なんでこんなことを思いついたんだろうという気がするのですが)。と、予想しなかったことにサッカーボールが2つくっついたC120という全く新しい分子が生成したのです。この分子はその形からバッキーダンベル(buckyはbuckminsterfullerene(C60)の愛称)と名付けられました。ダンベルを加熱すると中央の結合が切れて、もとの2つのボールに戻ります。

C120

 これとは別に、Wudlらのグループはフラーレンのサッカーボール構造に窒素原子を1個組み込むことに成功しています。これはC60分子に細工をして窒素を後からもぐり込ませて作りますが、こうなると窒素の隣の炭素は結合の腕が1本余ってしまいます。そこでこの腕同士が手を結び、フラーレンが2つくっついたユニークな(C59N)2分子を形成することがわかりました。

(C59N)2

 そろそろフラーレンに関する話題も切れてきたかな、と思っているとまたひょっこりと新しい一面が顔をのぞかせる。フラーレンというやつは分子の世界の千両役者だなとつくづく感じさせます。

 この項目は月刊化学(化学同人)98年3月号を参考にしました。

 

 (追記)

 このページをご覧になった平塚工科高校の望月先生から、化学部の生徒さんの卒業作品として、上記のドーナツフラーレンC200の模型を作成したというメールをいただきました。みごとな出来映えですので、先生の許可を得てここに公開させていただきます。どうもありがとうございました。

C200分子模型(平塚工科高校化学クラブ制作)

 

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