Science mini-story (1) 〜日本発・113番元素登場〜

 この9月28日、理化学研究所(理研)は、113番に当たる新しい元素を合成・発見したと発表しました。これは「有機化学美術館」の守備範囲からは外れる話なのですが、せっかくの日本発の大きな科学トピックですから、いわば番外編、サイエンス・ミニストーリーとでも題してこの発見を紹介してみることにしましょう。

(1)113番元素発見の価値は?

 この世のありとあらゆるものは「元素」が組み合わさり、つながり合って成り立っています。「元素」には炭素・鉄・硫黄・アルミニウムのようになじみの深いものから、バナジウム・ストロンチウム・アクチニウムなどあまり聞いたことのないものまで、約110種類がこれまでに知られています。この「世界を作る構成要素」のリストに新しくひとつを付け加えたわけですから、これは文句なく巨大な業績、科学史の一ページを飾る出来事といえるでしょう。日本で発見された元素はこれが初めてで、理研の研究員も「科学者にとってオリンピックの金メダルよりも価値がある」とコメントしています。発見の瞬間の喜びと興奮はいかばかりのものであったか、筆者も科学者の端くれとして羨望を禁じ得ません。

 

(2)「元素を合成した」とは?

 今回113番元素は「核反応により合成された」となっています。しかし「世界を作る構成要素」である元素を、人間が合成したというのはどういうことなのでしょうか?

 原子核は陽子(プラスの電荷を持つ)と中性子から成り、そのまわりには陽子と同数の電子(マイナスの電荷を持つ)が回っています。元素の化学的性質を決めるのは外を回っている電子ですから、結局陽子の数によってその元素の性質が決まるといえます。この原子核内の陽子の数のことを「原子番号」と呼びます。原子番号が1なら水素、6なら炭素、26なら鉄、79なら金といったあんばいで、今回誕生した新元素は113個の陽子を持つ元素であるわけです。

陽子と中性子の重さはほぼ同じで、電子はこれよりはるかに軽い(約1836分の1)ため、原子の重さというのはほぼ陽子と中性子の数に比例すると言って差し支えありません。陽子6個、中性子6個から成る炭素原子の重さ(質量)は、陽子1つの約12倍になるわけです。このため原子核内の陽子と中性子の数の合計を「質量数」といいます。ふつう炭素に含まれる中性子の数は6個ですが、これが7個・8個のものもあり、それぞれ炭素12・13・14などというように呼んで区別します。

炭素12の原子模型。陽子(赤)6個、中性子(青)6個から成る原子核の周りを、6個の電子(黄)が回っている。

 しかし原子核はふくらんだ風船と同じで、ある程度以上に大きくなるとだんだん不安定になってきます。安定に存在できる最大の元素は、陽子82個と中性子126個から成る鉛208です(注1)。これより大きな原子核はどれも粒子を放出したり、真っ二つに分裂したりして徐々に「崩壊」していきます。この崩壊のペースは「半減期」という数値で表され、もとあった原子が壊れて半分に減ってしまうまでに要する時間を指します。半減期が短いほど不安定な元素である、ということになります。

 天然から見つかる最大の元素は原子番号92のウランです(注2)。これも徐々に放射線を出して壊れていきますが、45億年という極めて長い半減期を持つため長い地球の歴史を持ちこたえ、天然から鉱石の形で発見されているわけです。そしてこれより大きな原子番号を持つ元素(超ウラン元素)は天然には存在せず、全て人工的に作り出された元素なのです。

(注1)最も重い安定元素は原子番号83のビスマス209だと言われてきましたが、最近になってこのビスマスも極めて長い半減期(1900京年)ながら崩壊することが判明しました。

(注2)正確にはウラン鉱石から原子番号93のネプツニウム、94のプルトニウムもごく微量検出されています。

 

(3)超ウラン元素の合成

 ではそんな不安定な元素をいったいどうやって作り出すのか。原理を言ってしまえば簡単で、原子核と原子核をぶつけ、合体させて作るのです。例えば96番元素キュリウムは、94番のプルトニウムにヘリウムの原子核(陽子2個、中性子2個)を撃ち込んで作り出されました(94+2=96)。

しかし衝突させる原子核はどちらもプラスの電荷を持っていますので、並大抵のスピードでぶつけても互いに反発しあってはじき返されてしまい、うまくいきません。さらに大きな元素を作ろうとすれば大きな原子核を撃ち込まねばなりませんから、プラス電荷も増えて合体はより困難になっていきます。

 このために使われるのが電磁気の力を利用して粒子を加速する「サイクロトロン」と呼ばれる装置です。今回使われた理研のサイクロトロンは高さ6m、直径13mという巨大なもので、重さ530tの電磁石4基を使い、粒子を光速の数十%にまで加速することができます。今回の113番元素の合成は、原子番号30の亜鉛70をサイクロトロンで加速し、原子番号83のビスマス209に叩き込むという方法で行われました。30+83=113というわけです。(追記:今回用いられたのはサイクロトロンではなく、線形加速器リニアックという機械だそうです。訂正してお詫びします。)

 と、口で言うだけなら簡単ですが、実際には亜鉛をビスマスに撃ち込む角度やスピードが悪ければただ原子がバラバラに砕け散るだけであり、極めて不安定な元素113はなかなか生成しません。またありとあらゆる原子核の破片が乱れ飛ぶ中から、ごくわずかの元素113を検出することもまた、途方もない困難を伴う作業であることは容易に想像がつくでしょう。

 今回の実験では、1秒間に2.5兆個の亜鉛ビームを80日間続けてビスマスに向かって撃ち込み、1700京(1.7×1019)回の衝突を起こした中から、たった1原子の元素113(質量数278)を検出したといいます。できた113番元素はわずか1万分の3秒でα線という粒子を出して崩壊し、この世から消滅しました。まあなんとも浮き世離れした話ではありますが、これもまた科学にとって偉大な一歩ではあるのです。

 

 というわけで今回はいったんここで終わり、次回は113番元素発見の意義、新元素の名前はどうなるのか、今後新たな元素が見つかってくる可能性はあるのか、といったところを語っていきましょう。

 

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