☆お腸夫人(ダイドードリンコ)

 かつて「エースをねらえ」という名作テニス漫画があったのをご存じでしょうか。連載されていたのは20年以上も前のことですが、アニメ化されて何度か再放送もされたので、比較的若い世代にもその名は知られていることと思います。筆者も姉が単行本を買いそろえていたので、いまだに結構ストーリーを覚えていたりします。

 さて、この漫画の主人公はちょっぴりドジ(死語)なごく普通の女子高生・岡ひろみなのですが、実は多くの人の記憶に残っているのはサブキャラであった「お蝶夫人」の方なのではないでしょうか。本名は竜崎麗華(もう名前からビンビンに飛ばしてます)、竜崎財閥の総帥にしてテニス連盟の理事である父を持ち、自身も超高校級スーパープレイヤー、成績優秀で生徒会副会長で全校生徒の憧れの的、その美貌と華麗なプレイぶりから「お蝶夫人」のあだ名が付けられた……という、現実から激しく遊離した途轍もないキャラクター設定になっています。

特筆すべきはやはりその髪型で、ちょっと髪を茶色にしただけで不良呼ばわりを受けていたこの時代に思い切りキラキラのド金髪、さらにマリー・アントワネットもびっくりの膨大な巻き毛というとんでもない頭です。「お前の学校には校則はないのか」「テニスの時邪魔だろ」といった生半可なツッコミなど鼻から受け付けない強烈なキャラクター設定、主人公を簡単に食ってしまうほどの強力なインパクトを後世に残したのも無理からぬところといえるでしょう。

 そして時は流れて2003年、この名キャラクターお蝶夫人がドリンクとなって甦りました。ダイドードリンコより登場のこの一品、なかなか手に入らなかったのをなぜか青森の地でゲットいたしました。これです。


 力抜けますねー、たとえわかっていても。なんでもプルーンの果汁が入っていて便秘などに効くので「お腸夫人」なんだそうですが、とにかくジュースの名称に臓器の名前が登場するのは空前にして絶後のことでしょう。表面デザインには5種類あり、キャッチコピーも「手加減しなくってよ!!」「すっきりなすったら?」「お腹にはプルーン。覚えてらして」などが用意されているそうです。一瞬コンプリートしようかと思いましたが、33にもなって「お腸夫人」を買いだめする男の姿というのはビジュアル的にどうなのかつい考えてしまい、購入は手控えました。このあたり筆者もマニアとして踏み込みが弱いところです。

 肝心の味の方はどうか、さっそくポイズニング。む、「ぬるぅん」とした感触。そして「甘ぁ〜い」と「〜」を使いたくなるようなぬんめりとした甘さ加減です。ビンの背面には「お腹のためには、毎日お飲みになることね。」というキャッチコピーが入っていますが、辛党の筆者にとってこれを毎日というのは相当の精神力を必要としそうです。まあ健康ドリンクと思えば飲めないことはないか、というレベルでしょうか。

で、便秘に効くのかどうか……これは生まれてこの方一度も便秘には縁のない、鉄の大腸を持つ男佐藤(健)には判定不能です(そんなもんしか自慢できることがないのか、と言われるとつらいですが)。これについては諸子の研究を待つことにしましょう。

 

 まあしかしこの名称ですが、こうした一見バカなネーミングこそ、発売までには苦労があったのではないかと思います。例えばこんなやりとりがあったのではないでしょうか。

「部長!我々の企画書、お読みいただけたでしょうか?」

「なんだ?あのふざけた名前のジュースのことかね?バカげたことをいうのもいい加減にしたまえ」

「いやしかし、マーケティングの結果では……」

「何がマーケティングだ!もっと真面目にものを考えたまえ!伝統あるダイドードリンコのブランドを何と考えとるんだ君たちは!」

「どうした、何の騒ぎじゃね」

「こ、これは会長。申し訳ありません、私の教育不行き届きでして……」

「ほう、『お腸夫人』のう。なかなか面白いじゃないか」

「会長!いやしかし……」

「これからは若い人たちの感覚がものをいう時代じゃ。好きなようにやらせるがよかろう」

「な……。あ、いや、実は私もなかなか面白いのではと思っていたところでありまして……」

「会長!ありがとうございます!」

「なあに、礼には及ばんよ。このくたばり損ないにできるのはこのくらいのもんじゃ、ふぉっふぉっふぉ」

「ありがとうございます!命にかえてもベストセラー商品に仕立て上げて見せます!みんな、こうしちゃいられないぞ、さっそくキャンペーンの準備だ!」(どこからともなく「風の中のすぅばるぅ〜」のテーマソングが流れたりする)

「ふぉっふぉっふぉ、期待しとるぞ。まあしっかりな」

「会長……」

「なあ中村君、若いというのはいいもんじゃな。わしもあと40……いや30年若ければな」

なんて会話があったのではないでしょうか(以上全て筆者の妄想)。また原作者である山本鈴美香先生の許諾を得るのも大変なことだったでしょう。聞くところによれば彼女は現在宗教団体の教祖様になっているということですから(本当)、下手をすれば信者たちに鍬を持って追っかけられるような事態もありえたでしょう。アホな名称であるからこそ、乗り越えなければならない壁は高かったものと推察されます。

 まあこれで大ヒット商品にでもなればそれこそ「プロジェクトX」だったわけでしょうが、実際にはすでにどうやら販売中止、あげくにこんな場末のホームページでネタにされるだけの末路を辿ったわけですから、世の中とはなんともままならないものです。お腸夫人フォーエバー、君のことは忘れない。


 ……と思っていたらなんと、「エースをねらえ!」がTVドラマ化されることが決まったようです。主演は人気絶頂の上戸彩、そしてお腸、いやお蝶夫人役には松本莉緒が登場するとのことです(ちゃんと巻き毛でバラをしょってるあたりが笑えます)。彼女らを起用してタイアップキャンペーンを張り、「お腸夫人」奇跡の復活なんてことになれば面白いんですが、まあドラマの最中にそんなCMをやられたんでは迷惑以外の何者でもないでしょう。花と毒物ドリンクはパッと咲いてパッと散るのがふさわしい、そんな気がします。  

 

 判定:★★★★

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