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↑NatureChemistry、いよいよ発刊目前!

 2009年 第8号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:収録終了。(分館)


 ☆今週の反応・試薬

 ・Claisen転位

 アリルビニルエーテルが、転位を起こしてγ,δ-不飽和カルボニル化合物を与える反応。[3,3]シグマトロピー転位の一つ。

 反応は熱またはルイス酸によって加速される。また、アリルフェニルエーテルもまた同様の条件で転位を起こし、2,4-シクロヘキサジエノン型の中間体を経由し、プロトン移動によってo-アリルフェノールを与える。

 また、フェニル基のオルト位が両方置換されている場合には、もう一段Cope転位を経て4-アリルフェノールを与える。

 アリルビニルエーテルの場合、反応は堅固ないす型遷移状態を通って進行する。このため反応前の不斉点は高い選択性で生成物へ転写される。ルイス酸により、立体を高度に制御する例も知られている。

 ※Claisen転位は奥の深い反応ですので、続きはまた次回に。

 参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 P88


 ☆注目の論文

・反応

Epimerization-Free Block Synthesis of Peptides from Thioacids and Amines with the Sanger and Mukaiyama Reagents
David Crich, Indrajeet Sharma
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805782

 チオカルボン酸とアミンを、向山試薬あるいはSanger試薬によってカップリングし、エピメリ化なしにアミドを形成する。シンプルなケミストリーの組み合わせながら、信頼性の高いペプチドのフラグメント縮合反応ができた意義は大きいのでは。

Pd-PEPPSI-iPent: An Active, Sterically Demanding Cross-Coupling Catalyst and Its Application in the Synthesis of Tetra-Ortho-Substituted Biaryls
Michael G. Organ, Selcuk Calimsiz, Mahmoud Sayah, Ka Hou Hoi, Alan J. Lough
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805661

 鈴木-宮浦カップリングのPdリガンド開発。オルト位が4ヶ所とも置換されたビアリール化合物を高収率で合成可能。この分野の競争も続いてきましたが、ちょっと極限に近いところまで来た感じです。

Direct Asymmetric Benzoyloxylation of Aldehydes Catalyzed by 2-Tritylpyrrolidine

 2-トリチルピロリジン触媒と、過酸化ベンゾイルの組み合わせにより、アルデヒドのα位を不斉酸化する。

・全合成

Total Synthesis of (-)-FR182877 through Tandem IMDA-IMHDA Reactions and Stereoselective Transition-Metal-Mediated Transformations
Natsumi Tanaka, Takahiro Suzuki, Takehiko Matsumura, Yosuke Hosoya, Masahisa Nakada
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200900097

 6環性化合物であるFR182877を、完全に鎖状の中間体から構築。

Total Synthesis of (±)-Agelastatin A, A Potent Inhibitor of Osteopontin-Mediated Neoplastic Transformations
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol900133v

 シクロペンタン骨格に4つの窒素が結合した海洋アルカロイド全合成。最初数段階の取り回しが面白い。

・超分子

Minimal nucleotide duplex formation in water through enclathration in self-assembled hosts
Tomohisa Sawada, Michito Yoshizawa Sota Sato & Makoto Fujita
Nature Chemistry doi:10.1038/nchem.100

 注目の新創刊誌、Nature Chemistryの第1号論文が登場。なんと藤田誠先生が記念すべき第1号を取りました!分子ケージ内で、DNAの短い断片が選択的に塩基対を形成することを示したもの。日本語要約および本文が無料ダウンロード可能になっています。
 新ジャーナルのトップを切っての掲載は、今後の同誌、さらには化学の進むべき方向性を示すものといってもよく、非常に大きな意義を持つのではないでしょうか。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 石油中に保存していた金属カリウムを取り出し、ナイフで切断していたところ突然発火を伴った爆発が起き、飛び散った破片で顔や腕に火傷を負った。

 金属カリウムはリチウムやナトリウムと異なり、空気中の酸素と化合して超酸化物(KO2)を作る傾向が強いことが知られています。古い金属カリウムは表面にこの超酸化物や水酸化物の被膜ができており、切断の際に内部のカリウムに触れて爆発するものと考えられています。また、この被膜をスパチュラで削っているうち爆発したケースもあります。古いものは、IPAなどでゆっくりと分解しなどして処分するべきです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.125)

 ☆館長の本棚

 天然物化学・生物有機化学〈2〉全合成・生物有機化学 (朝倉化学大系) 北川勲・磯部稔著 朝倉書店 5670円

 「朝倉化学大系」という大きなシリーズの一冊。単なる全合成だけの本かと思いきや、生化学に近い分野まで幅広くカバーしています。全合成では難易度の高い化合物群が選ばれ、今までの合成例が列挙・解説されています。テトロドトキシンなどは特にアプローチの仕方がそれぞれ独特で、参考になります。

 また後半の生物有機化学部分では、ノーベル賞のイクオリン・GFPに関する解説もあります。全合成からケミカルバイオロジーへの展開はこれからの大きな潮流と思いますが、この分野の日本の第一人者が書き下ろした優れた解説書と思います。

(目次)

V 天然物質の全合成

17 抗腫瘍活性をもつセスキテルペン・バーノレピンの合成
18 抗腫瘍活性をもつアンサマクロリド・メイタンシンの合成
19 タンパク質脱リン酸酵素阻害作用をもつオカダ酸の合成
20 タンパク質脱リン酸酵素阻害剤トートマイシンの全合成
21 フグ毒テトロドトキシンの合成

VI 生物有機化学

22 視物質の生物有機化学
23 生物発光の化学
24 タンパク質脱リン酸酵素とその阻害剤との分子間相互作用
25 昆虫休眠の生物有機化学


 ☆編集後記

 今回は化学と関係のない話を。

 一般論として、日本など温帯に住んでいる生物というのは、茶色・灰色などの地味な色のものが多いようです。ところが熱帯に行くと、花も鳥も魚もみんな赤だの黄色だのといった、ド派手な極彩色のものが多くなります。なぜこういう進化が起こったのかちょっと不思議なんですが、たぶん熱帯というのは姿を隠して生きるよりも、「俺はここにいるぞ!」と自己主張をしまくる方が生存に有利なのでしょう。

 で、今回テレビ収録のために久々に大阪にいってきたわけですが、やはり関西の文化ってのは「熱帯」だよなあ……と。建物や歩道橋の色、おばちゃんのメイク、「チカンアカン」というどでかいポスターに至るまでみんなド派手。信号をバンバン無視して横断する歩行者の群れ、しょうもないお笑い芸人が裸足で逃げ出しそうなほどおもろい会話を繰り広げるOLたち、何もかもが「熱帯」だよなあ、と思ってしまうのです。きらびやかさの極みともいうべき宝塚の舞台なんかは、まさしくクジャクやエンゼルフィッシュのあでやかな姿を連想させますし。

 「おいどんは九州から出てきて10年になりますばってん、九州弁がいまだに抜けもさんとですたい」という九州人は見たことがないですが、関東に来て10年たっても断固として関西弁をしゃべり続ける人間は山ほどいます。全国各地から子供をひとりずつ集めてきて同じ部屋で育てると、かなりの割合で全員が関西弁に染まるという実験結果もあるそうです。やはり関西及び関西弁には、他にないパワーがあるようです。

 念のために書いておきますと、筆者は短いながら関西に住んでいたこともありますし、大阪の食べ物も文化も好きです。しかしこの日本という均質な国の中で、なぜ関西圏だけが強烈な自己主張のもとに異文化を保ち続けられるのか、筆者にとってはライフワークともいうべき大きな謎なのです。

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