〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第6号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4..殿堂入り名論文・迷論文 5.館長の本棚 6.編集後記

・有機化学美術館更新情報:分館に連載開始のお知らせ。


 ☆今週の反応・試薬 〜 Corey-Fuchs反応

 1972年、E.J.CoreyとP.L.Fuchsが報告した、アルデヒドをから1炭素増炭してアルキンに変換する反応。まずトリフェニルホスフィンと四臭化炭素によって、アルデヒドをジブロモオレフィンとし、ここに2当量のブチルリチウムを作用させることでアセチレンが生成する。試薬は過剰に使う必要があり、多くの場合CBr4を2当量、PPh3を4当量ほど用いる。

 ジブロモオレフィンに2当量のn-ブチルリチウムを作用させるとリチウムアセチリドが得られる。これを水でクエンチすれば末端アルキンが、適当な求核剤を作用させれば付加体が得られる(アルデヒドを加えればプロパルギルアルコールが、クロロ炭酸エステルを加えたらアセチレンカルボン酸エステルが得られる。。


 ☆注目の論文

 ・反応

N-Heterocyclic Carbene-Catalyzed Nucleophilic Aroylation of Fluorobenzenes
Suzuki, Y.; Ota, S.; Fukuta, Y.; Ueda, Y.; Sato, M.
J. Org. Chem.; (Note); 2008; ASAP Article;  DOI: 10.1021/jo7023569

N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)を利用し、フッ化アリールとアリールアルデヒドからベンゾフェノン骨格を得る。NHCの化学はまだまだ可能性がありそうです。

 Proline-catalysed Mannich reactions of acetaldehyde
Jung Woon Yang, Carley Chandler, Michael Stadler, Daniela Kampen & Benjamin List
Nature doi:10.1038/nature06740

 プロリン触媒によるアセトアルデヒドの不斉Mannich反応。アセトアルデヒドの不斉反応は今まで難しかったので画期的なんでしょうが、Natureに載るほどなのかなあというのは正直筆者にはわかりません。

A Diarylprolinol in an Asymmetric, Catalytic, and Direct Crossed-Aldol Reaction of Acetaldehyde
Yujiro Hayashi, Takahiko Itoh, Seiji Aratake, Hayato Ishikawa
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 2082 (2008) DOI:10.1002/anie.200704870

 同じくアセトアルデヒドを用いた有機分子触媒によるアルドール反応。この2報についてはC&ENに解説あり。

 ・材料・超分子

Self-healing and thermoreversible rubber from supramolecular assembly
Philippe Cordier, Francois Tournilhac, Corinne Soulie-Ziakovic & Ludwik Leibler
Nature 451, 977-980 (2008)

いったんちぎっても押しつけるとまたくっつく、不思議な自己修復ゴムの開発。水素結合で鎖同士が結びついているため、圧着すれば再結合するのだそうです。掲載号のNatureには、相田卓三先生の解説もあり。ブログ「気ままに有機化学」でも紹介されています。ちなみにこちら、毎回大変しっかりとした解説を行っているブログなのでチェックあれ。

 ・医薬

 Improving Oral Bioavailability of Peptides by Multiple N-Methylation: Somatostatin Analogues
Eric Biron,Jayanta Chatterjee , Oded Ovadia , Daniel Langenegger , Joseph Brueggen , Daniel Hoyer, Herbert A. Schmid, , Raz Jelinek , Chaim Gilon , Amnon Hoffman,, Horst Kessler

 Angew. Chem. Int. Ed. EarlyViiew DOI:10.1002/anie.200705797

 環状ペンタペプチドのN-メチル化誘導体を系統的に合成し、バイオアベイラビリティを改善したものを見出した。まあどんなペプチドでもうまくいくわけではないだろうけど、ペプチド誘導体にはもっと医薬としての可能性があるのかも。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 ・3gのNaBH4を17mlのDMFに溶かして室温に放置していたら、誘導期間を置いて突然反応が暴走した。

 NaBH4による還元は通常アルコールを用いますが、うっかりDMFを使ってしまった例です。DMFが還元され、トリメチルアミンが生成したものと思われます。基質が溶けない場合に思わず入れてしまいそうですが、危険です。


(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.138より)


 ☆殿堂入り名論文・迷論文

 有機化学の金字塔となる名論文・アイタタと思うような迷論文を取り上げていこうと思います。

Cyclic polyethers and their complexes with metal salts
Charles J. Pedersen
J. Am. Chem. Soc.; 1967; 89(26); 7017-7036 DOI: .10.1021/ja01002a035

 Pedersenによる、クラウンエーテルのフルペーパー。デュポン社の一研究員であった彼は実験の最中に偶然クラウンエーテルを合成し、その不思議な性質を発見します。これを上司に報告したところ、「科学的に重要な発見であるから」として、本業を離れて研究の続行が許可されました。Pedersenは一人で黙々と実験を続け、定年間際の63歳の時、単独著者でこの論文を発表します。この論文はJACS史上最も引用された論文のひとつとなり、この1報だけでPedersenは1987年のノーベル化学賞を獲得します。文字通り歴史的名論文です。
 ところで、今あなたがクラウンエーテルを発見したとして、あなたの会社はその研究を続行させてくれるでしょうか?

 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

がんを知り、がんを治す―研究最前線と新薬開発 (別冊日経サイエンス 160)

 今や日本人の死因第1位となったガンの、発生から最新の治療法までをまとめた1冊。細胞が変異によってひとつひとつ制御を失い、異常に増殖する能力を獲得していく過程は、生物の進化と同じ現象である――という記述になるほdね、と深く納得。最後の章では抗体医薬、糖鎖をターゲットとした新薬、さらにカレーのスパイスの効用なども盛り込まれ、ガン治療に希望を抱かせてくれます。資料として買いましたが、大変に面白かった1冊です。


 ☆編集後記

 都合により少々発行が遅れました。申し訳ありません。
非常にどうでもいいことですが、「エーテル」と言った場合、狭義にはジエチルエーテルを指しますよね。「アセタール」にもこういう狭義があるのだそうです。アセトアルデヒドのジエチルアセタール(MeCH(OEt)2)のことを「アセタール」といって通じるのだそうです。素晴らしくどうでもいい話なんですけど。

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