〜〜メルマガ有機化学〜〜


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 2009年 第6号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

 ※前回、「安全な実験のために」のコーナーで「毒性の高い二塩化塩素(ClO2)が発生し」と書いてしまいました。言うまでもなく「二酸化塩素」が正解です。訂正してお詫びします。


 ☆今週の反応・試薬

 ・亜リン酸トリエチル (EtO)3P

 沸点155度、比重0.958の、無色液体。悪臭があるので、ドラフト内で取り扱う。用途は還元剤、Arbuzov反応試剤など。

 ☆Arbuzov反応

 ハロゲン化アルキルと亜リン酸エステルの反応により、ホスホン酸エステルを合成する反応。Wittig-Horner試薬の合成に用いられる。

 ☆還元剤として

 N-O結合、O-O結合などの還元。

 ☆脱硫

 燐は硫黄原子と親和性が高いため、脱硫にも用いられる。下のように、チオ炭酸エステルに3価リン化合物を作用させ、syn脱離させてオレフィンとする反応はCorey-Winter反応と呼ばれる。

 ※結構用途の広い試薬です。Corey-Winterはきれいに行く反応なのですが、官能基を減らす反応なのであまり使われないですね。ただし体にいい試薬ではないので、取り扱い注意。

 参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 P16
 The Chemistry of Oxaziridines(セミナー資料、PDFファイル)


 ☆注目の論文

・反応

Asymmetric Intramolecular Carbocyanation of Alkenes by C-C Bond Activation
Carmen Najera, Jose M. Sansano
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805601

Rhodium(I)-Catalyzed Enantioselective C-C Bond Activation
Christian Winter, Norbert Krause
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805578

 前者はNi触媒でAr-CN結合を、後者はRh触媒でひずんだ小員環をという違いはあるが、いずれもC-C結合を金属触媒で切断する反応。C-H活性化に続く新たな潮流になるか?

Synthesis of Small Glycopeptides by Decarboxylative Condensation and Insight into the Reaction Mechanism
J. Org. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jo802278w

 ヒドロキシルアミンとα-ケトカルボン酸が結合してアミドを与えるBode反応(勝手に名づけました)を応用した、糖ペプチド合成の試み。システインを使うNCLに比べて実用性はあるのか……?

Five-Bond Cleavage in Copper-Catalyzed Skeletal Rearrangement ofO-Propargyl Arylaldoximes to β-Lactams
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja900133m

 5つの結合が切れて再編成する反応で、β-ラクタムが出来上がる。何がどうなっているのか筆者にはわかりませんが、どなたか解説いただけませんか。

・全合成

Total Synthesis of Rapamycin
Steven V. Ley, Miles N. Tackett, Matthew L. Maddess, James C. Anderson, Paul E. Brennan, Michael W. Cappi, Jag P. Heer, Celine Helgen, Masakuni Kori, Cyrille Kouklovsky, Stephen P. Marsden, Joanne Norman, David P. Osborn, Maria A. Palomero, John B. J. Pavey, Catherine Pinel, Lesley A. Robinson, Jurgen Schnaubelt, James S. Scott, Christopher D. Spilling, Hidenori Watanabe, Kieron E. Wesson, Michael C. Willis
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200801656

 アザジラクチンに続き、大部隊を投入してのラパマイシン全合成。こういうのは過去の合成例と比べると勉強になります。

Synthetic Studies on (?)-Lemonomycin: An Efficient Asymmetric Synthesis of Lemonomycinone Amide
J. Org. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jo8027449

 イソキノリンアルカロイドの全合成。gem-ジオール構造をとる珍しい化合物で、このへんをめぐっていろいろな工夫がなされています。

・超分子

Solid-State Enantiopure Organic Nanocubes Formed by Self Organization of aC3-Symmetrical Tribenzotriquinacene
Jorg Strube, Beate Neumann, Hans-Georg Stammler, Dietmar Kuck
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200802371

 8つ集まって立方体の空間を囲む分子。設計の妙。

・その他

Nitrogen-Doped Carbon Nanotube Arrays with High Electrocatalytic Activity for Oxygen Reduction
Kuanping Gong, Feng Du, Zhenhai Xia, Michael Durstock, and Liming Dai
Science 323, (2009),: 760-764. DOI:10.1126/science.1168049

 格子中に窒素原子を含むカーボンナノチューブが、酸素(O2)還元の触媒として働く。こういう応用が出てきましたね。

Self-Assembly of Fivefold-Symmetric Molecules on a Threefold-Symmetric Surface
Olivier Guillermet, Eeva Niemi, Samuthira Nagarajan, Xavier Bouju, David Martrou, Andre Gourdon, Sebastien Gauthier
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805689

 5回回転対称のペンタメチルコランニュレンがどう平面を埋め尽くすか。数学・芸術・化学の間に生まれた研究。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 tert-ブチルリチウムをシリンジで吸い上げようとしていたら、針が外れて発火し、セーターに燃え移った。この学生は2週間後死亡した。

 昨年末、UCLAで起きた事故です。亡くなったのは22歳の女子学生であると伝えられています。すでにC&ENや海外のブログでも取り上げられていますので、ご存知の方も多いと思います。

 tert-ブチルリチウムやジエチル亜鉛などが発火性であることは有名で、筆者もシリンジの先から火が漏れてヒヤッとしたことはあります。今回の事件では、この学生が白衣を着ず、ポリエステルのセーター(C&ENでは「固体のガソリンのようなもの」と表現しています)を着ていたことが悲劇の源となったようです。

 対策などに関しては、「化学者のつぶやき」にてよくまとめられていますので、ご一読をお勧めします。筆者から付け加えるとすれば、実験室に備える消火器としては、後は汚れるけれど消火力の強い粉末式がよいということ、緊急時連絡網などの確認を普段からしっかりしておくことなどでしょうか。火は何より被害が大きくなりやすいので、対策はきちんとしておきたいところです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.156も参照)

 ☆館長の本棚

 恋する天才科学者 内田麻理香 著 講談社 1470円

 文字通り、天才科学者たちの恋愛について取り上げた本。女性ならではの切り口で、これはかなわんなあと思わせるアプローチ。天才ってのは神格化されすぎて、人間味を語るエピソードなんかも漂白されて味気なくなってしまいがちですが、そんな彼らのやることが実はメチャクチャだったりするのには驚きです。とんでもないプレイボーイのアインシュタイン、恐ろしくケンカっ早いニュートン、悪女に悩まされ続けたノーベル、「私とベッドを共にした女性がその結果、生涯私と暮らしたいと願わなかったことはない」なんぞとほざきやがるシュレーディンガーなどなど、読みやすく面白いエピソードが満載です。

 惜しむらくは、日本人は南方熊楠ひとり。やはりスケール的に向こうの科学者にはかなわないんでしょうか。また化学分野からは19世紀のデーヴィとファラデーの二人だけで、ちょっと淋しいところです。まあWoodwardやCoreyといえども、世間的な知名度では大したことがないからやむを得ませんが、やはり化学者ってのは地味なのか。このあたり、続編にぜひとも期待したいところです。


 ☆編集後記

 こうやってメルマガを書いているのは、世のため人のためというより、自分の勉強のためという意味が強くあります。こうでもしないと毎週きちんと論文を読んで、最新の動向についていくことはできないと思いましたので。
 しかし自分よりはるかにレベルの高い専門家が見ている中に、もっともらしくコメントなどつけて論文紹介を送りつけるなどは、死ぬほど恥ずかしいことでもあります。「こいつこんなしょうもない論文を面白がってんのか」「全然コメント的外れじゃん」というのも山ほどあるはずで、指摘を受けてブルーになることもしばしばです。
 現代化学の連載でも、「トレンドウォッチ」と称しているからにはC-H活性化とか鉄の反応とかも取り上げるべきなんだろうなと思いつつ、「有機金属苦手の会」会長としてはどうしても尻込みしてしまったりします。

 それでも人前に向けて書き、恥をさらすことでご指摘・ご教示をいただき、初めて成長できることもあるわけで。突っ込みを食らっても失うものはなく、得るものは大いにあります。最近はだいぶ打たれ強くもなったこともありますし(笑)、これからも恥をさらし続けますので、ガンガン突っ込みを入れてやっていただければさいわいです。あ、できれば優しく突っ込んでいただいた方が嬉しいですけど。

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