〜〜メルマガ有機化学〜〜


↑NatureChemistry、いよいよ発刊目前!

 2009年 第5号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: (本館英語版)NanoPutian (分館)ブックレビュー(2/4)


 ☆今週の反応・試薬

 ・Davisオキサジリジン


図1 Davisオキサジリジン

 オキサジリジンはC,N,Oから成る3員環を指す。主にイミンの過酸酸化によって合成される。1970年代後半からDavisはこの分野の研究を行い、窒素にスルホニル基がついた上記のような化合物が比較的取り扱いやすいことを発見した。これらは優れた酸化剤となり、いくつかは試薬として市販されている。

 最もよく用いられるのは、エノラートの酸化反応である。ケトンにLDAなどを作用させてエノラートとし、ここにオキサジリジンを作用させると、ケトンのα位にヒドロキシ基を導入することができる。

 図1左のようなカンファー由来のオキサジリジンを用いると不斉酸化が行える。この方法はHoltonのタキソール合成で2度にわたって用いられた。またEvansの不斉補助基を用いて、カルボン酸のα位に立体選択的にヒドロキシ基を導入することも可能である。この方法は、J. D. Whiteらによるエポチロン全合成に用いられた。

※酸素官能基を増やす手段としてスタンダードな手法。今はプロリンでやる方がナウい(ド死語)のかもしれませんが。

 参考:人名反応に学ぶ有機合成戦略 P130
 The Chemistry of Oxaziridines(セミナー資料、PDFファイル)


 ☆注目の論文

・反応

anti-Diastereo- and Enantioselective Carbonyl Crotylation from the Alcohol or Aldehyde Oxidation Level Employing a Cyclometallated Iridium Catalyst: α-Methyl Allyl Acetate as a Surrogate to Preformed Crotylmetal Reagents
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja808857w

 一級アルコールとアセチレンからアリルアルコールができる。OやNのα位でC-C結合を作る反応もずいぶん増えてきました。

・全合成

Total synthesis of a chlorosulpholipid cytotoxin associated with seafood poisoning
Christian Nilewski, Roger W. Geisser, Erick M. Carreira

Nature 457, 573-576( 2009) doi:10.1038/nature07734

 塩素がたくさんついた毒性の脂質の合成。エポキシドを開く時、遠隔の塩素によって選択性が変わってしまうことが発見されたとのこと。そしてこの論文がNature-worthyかどうかは、また議論が起こることになりそうです。

Total Synthesis of the Antiviral Peptide Antibiotic Feglymycin
Frank Dettner, Anne Hanchen, Dominique Schols, Luigi Toti, Antje Nuser, Roderich D. Sussmuth
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804130

フェニルグリシン誘導体がたくさんつながった化合物の合成。こんなもんただのペプチドなんだから楽勝だろ、と思いきや極端にラセミ化しやすいため苦労があるようです。どうして抗ウイルス活性が出るのかにも興味がありますね、これ。

Semisynthesis of a Homogeneous Glycoprotein Enzyme: Ribonuclease C: Part 1
Christian Piontek, Petra Ring, Olaf Harjes, Christian Heinlein, Stefano Mezzato, Nelson Lombana, Claudia Pohner, Markus Puttner, Daniel Varon Silva, Andreas Martin, Franz Xaver Schmid, Carlo Unverzagt
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804734

Semisynthesis of a Homogeneous Glycoprotein Enzyme: Ribonuclease C: Part 2
Christian Piontek, Daniel Varon Silva, Christian Heinlein, Claudia Pohner, Stefano Mezzato, Petra Ring, Andreas Martin, Franz Xaver Schmid, Carlo Unverzagt
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804735

 遺伝子組み換えと有機合成の合わせ技で、糖タンパクの合成を達成。今まで合成が難しかったジャンルだけに、面白い結果なのでは。

Chemoselectivity: The Mother of Invention in Total Synthesis
Acc. Chem. Res.,Articles ASAP  DOI: 10.1021/ar800182r

 Phil Baranの俺様レビュー早くも登場。まあすごいとしか言いようがないのですが。

A Short, Scalable Synthesis of the Carbocyclic Core of the Anti-Angiogenic Cortistatins from (+)-Estrone by B-Ring Expansion

 エストロンの骨格転位により、コルチスタチンの骨格を大量合成可能。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を衣服についたまま放置していたら、突然発火した。

 この試薬はアルデヒドからカルボン酸への酸化に有用で、以前当メルマガでも取り上げました。穏和な扱いやすい酸化剤ではありますが、上記のような事故例もありますのでご注意を。

 また鉄さびなど金属酸化物の作用で、毒性の高い二塩化塩素(ClO2)が発生し、これを吸入した死亡事故も報告されています。亜硫酸ナトリウムか、チオ硫酸ナトリウム溶液で洗浄・分解するのが手堅い処理方法であるようです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.262より)

 ☆館長の本棚

 最新有機合成法 設計と戦略 G.S.Zweifel , M.H.Nantz著, 檜山爲次郎 訳 化学同人 6825円

 これも「Modern Organic Synthesis: An Introduction」(2006)の翻訳書で、やはりありがたいことに原著の2/3の価格で購入可能になりました。アマゾンの在庫状況など見ても、好著だけにやはり売れているようです。
 逆合成計画というのは重要でありながら慣れないと難しいものですが、この手の本でひとつひとつパターンを身につけ、センスを磨くのが何より肝要なのかと思います。といっても、筆者も自信は全くないのですが。

(主要目次)

1章 合成設計(逆合成解析/カルボニル基の極性の逆転(極性転換)/合成計画の手順/他) 
2章 合成計画における立体化学の重要性(配座解析/非結合相互作用の評価/六員環のへテロ環/他) 
3章 官能基の保護(NH 基の保護/アルコールのOH 基の保護/ジオールのアセタール保護/他) 
4章 官能基変換:酸化と還元(アルコールからアルデヒドやケトンへの酸化/アルコール酸化用の反応剤と処法/アルコールの官能基選択的酸化剤/アシロインの酸化/他) 
5章 官能基変換反応:炭素-炭素π結合の化学と関連反応(炭素-炭素二重結合の反応/ 炭素-炭素三重結合の反応) 
6章 エノラートアニオンを経由する炭素-炭素単結合の形成(1,3 -ジカルボニル化合物および関連化合物/単純エノラートの直接アルキル化/ 環化反応─閉環のためのBaldwin則/他) 
7章 有機金属反応剤を用いる炭素-炭素結合形成(有機リチウム反応剤/有機マグネシウム反応剤/有機チタン反応剤/他) 
8章 炭素-炭素π結合の形成(炭素-炭素二重結合の形成/炭素-炭素三重結合の形成)  
9章 炭素化合物の合成(遊離ラジカルの分子内環化反応/カチオン-π環化/ペリ環状反応/他) 
エピローグ:合成という名の芸術,略語:章末問題の解答(抜粋)


 ☆編集後記

 日本化学会は会員4万人を擁し、日本最大の学会なのだそうです。ちなみにACSは16万人だそうで、あらゆる学問の中でも化学者が最も多い方であるのは間違いないようです。筆者のように一度も日本化学会に所属したことのない不届き者もいると思いますので、実際の化学者の数は相当の数字になるのでしょう(余談ながら、筆者の唯一入った経験のある学会は、日本折紙学会であったりします)。

 しかしそのわりには一般向けの化学の本というのは、書店でほとんど見かけない気がします。編集者さんに聞いても、サイエンスの本で売れるのは数学とか天体物理学とかの本なんだそうで、確かにフェルマーの大定理やポアンカレ予想なんか誰にもわかるわけがないのにずいぶん本が出ました。

 数学には専門家以外にも数学ファンという層があって、自分なりに研究したり議論したり数学を楽しむ文化があるようです。しかし化学ファンってのはあまり聞いたことがないですね。紙と鉛筆(とパソコン)さえあればできる数学と違って、化学には実験道具が必要ということもあるでしょうが、もう少し「化学を楽しむ」という発想があってもいい感じはします。

 もうひとつ化学の本が少ない理由を考えるとするなら、化学は有機・無機・分析・生化学などジャンルが分散していて、ひとつの分野としてまとまりが薄いということもあるように思います。合成屋が分析の本を読んでもちんぷんかんぷんだったりするのが実情ですし。

 ま、そんなわけで、みなが楽しめる化学の本を書くよう努力いたしますということで。

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