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 2008年 第46号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: 今月のお知らせ(12/22) 有機化学美術館10周年(12/24)(分館)


 ☆今週の反応・試薬

 ・Shi不斉エポキシ化

 中国の史一安らによって報告された反応。安価なフルクトースから2段階で合成できるケトンを触媒とし、オレフィンを高い不斉収率でエポキシ化する。Sharpless酸化はアリルアルコール、Jacobsen酸化はスチレン誘導体に基質が限定されるが、こちらはトランス2置換・3置換の単純なオレフィンで高い不斉収率を与える。


概念図。図はWikipediaより。

 酸化剤としてはOxone(硫酸水素カリウム・過硫酸水素カリウムなどの複塩)が用いられる。これが触媒のケトンをジオキシランにし、オレフィンと反応してエポキシ化する。酸性条件下では触媒がBaeyer-Villiger酸化によって壊れてしまうので、塩基性に調整した上で反応を行う。

 触媒の構造を変え、末端オレフィンやシス2置換オレフィンの不斉酸化も実現されている。またアセトニトリル溶媒を用い、過酸化水素を酸化剤として用いる系も報告されている。

 ※Wikipediaの方に参考文献など掲載されています。また、こちらに大変よくまとまっています(PDF, 1.13MB)。こういう風にセミナーの資料を公開してくれると、情報源として非常にありがたいですね。


 ☆注目の論文

・反応

C?H Bond Functionalization via Hydride Transfer: Lewis Acid Catalyzed Alkylation Reactions by Direct Intramolecular Coupling of sp3C?H Bonds and Reactive Alkenyl Oxocarbenium Intermediates

 エーテル酸素の隣に位置する水素のヒドリドシフトにより、分子内のオレフィンと環化してピラン環を形成する。ルイス酸だけでこれが行くのか?と思うような反応です。

Iron-Catalyzed 1,4-Addition of α-Olefins to Dienes

 鉄触媒により、末端オレフィンが共役ジエンにMichael付加する。こんなことできるの?的反応です。時代はやはり鉄なのか。

Domino Iron Catalysis: Direct Aryl-Alkyl Cross-Coupling
Waldemar Maximilian Czaplik, Matthias Mayer, Axel Jacobi von Wangelin
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804434

 アルキルハライドとアリールハライドを、マグネシウム・鉄触媒でワンポット還元的カップリングを達成。鉄恐るべし。

Modular Synthesis of Tetrasubstituted Imidazoles and Trisubstituted Oxazoles by Aldimine Cross-Coupling
Coralie Kison, Till Opatz
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200802175

 3置換オキサゾール・4置換イミダゾールの簡便な合成。製薬会社のみなさんはチェック。

Cross-Dehydrogenative Coupling (CDC): Exploring C?C Bond Formations beyond Functional Group Transformations
Chao-Jun Li
Acc. Chem. Res ASAP DOI:10.1021/ar800164n

 C-H結合を切断し、形式的に水素分子が除かれる形のクロスカップリング。一昔前では考えられなかった反応形式です。

Highly efficient molybdenum-based catalysts for enantioselective alkene metathesis
Steven J. Malcolmson, Simon J. Meek, Elizabeth S. Sattely, Richard R. Schrock & Amir H. Hoveyda
Nature 456, 933-937 doi:10.1038/nature07594

 エナンチオ選択的な、モリブデン中心のメタセシス触媒。こちらに解説あり。Nature掲載の価値ありかどうか、みなさんの見解はいかがでしょうか。

・全合成

Total Synthesis of (?)-Penifulvin A, an Insecticide with a Dioxafenestrane Skeleton

 フェネストラン骨格を持つ珍しい天然物ペニフルビンの全合成(下図)。アブストラクトの図だけ見ると何だこれ?と思うような合成ですが、もっと驚くのはこの化合物が5段階(光学活性体は8段階)で出来上がっていること。いいものを見せていただきました。

Total Synthesis of Brevetoxin A
Michael T. Crimmins, J. Lucas Zuccarello, J. Michael Ellis, Patrick J. McDougall, Pamela A. Haile, Jonathan D. Parrish and Kyle A. Emmitte

 ブレベトキシンA全合成。これを造ってOrg. Lett.止まりか……。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います(下図す)。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 不活性ガスに含まれていた一酸化炭素が配管のニッケルと反応し、Ni(CO)4が発生して吸入した研究者が死亡した。

 ニッケルカルボニルNi(CO)4は、非常な猛毒として有名で、「死の液体」などとも呼ばれます。辻二郎先生の有機金属の教科書には「この化合物の臭いを知っている者はいない。その臭いを嗅いだ者は全員死亡しているからである」と淡々と書いてあり、ひええと思ったものです。一酸化炭素やシアンガスよりも遥かに毒性が高く、「ドラフト内で扱えばよい」というレベルの代物ではありません。また発火性もあり、かなりの低圧でも火を噴いた例があるようです。たまに試薬として使っている論文を見ますが、よほどの設備と覚悟がない限り使うべきものではないでしょう。

 ニッケル以外にも、金属カルボニル化合物には猛毒が多く、取り扱いは注意すべきです。試薬として使うのではなくても、一酸化炭素が金属製品と反応して生成するケースもあるので、注意を払うべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.162より)

 ☆館長の本棚

 日本にノーベル賞が来る理由 (朝日新書) 伊東乾著 735円

 東大で物理学の博士号を取った異色の音楽家・伊東乾氏によるノーベル賞論。日経ビジネスオンラインで連載され、筆者も興味深く読んでいたのですが、あまりの評判に緊急出版となったようです。それだけの見識があり、非常に面白い分析がなされています。

 湯川秀樹の受賞(1949年)は、物理学が生み出した鬼子である原爆投下に対する日本への謝罪の意味が込められていた、軍事に関わった大物理学者フリーマン・ダイソンには、平和を旨とするノーベル賞の理念とは合わないため決して受賞しない……など、ちょっと驚くような分析が次々に展開されます。21世紀に入って日本の受賞数が急増している理由など、ノーベル賞委員会の意図についてはなるほどと思わされるところが多く、いちいち唸らされます。中には「日本が死刑制度を廃止すれば、もっとノーベル賞が来やすくなる」など、「本当か?」と思うところもないではありませんが。

 ただし、アマゾンの書評にもある通り、明らかな科学的誤りが散見されます。緊急出版であるためかもしれませんが、ちょっとこのへんは残念ではあります。とはいえ一読の価値は十分ある本です。


 ☆編集後記

 というわけで有機化学美術館は開始から10年となりました。10年といえば、ランドセルをしょった小学生が社会人になろうかという年月ですから、まあずいぶん長いなと。今後もよりよいものをお届けしたいと思いますので、どうぞ今後ともよろしく。

 さて聞くところによれば、アセトニトリルが不足しているとのこと。筆者も知らなかったんですが、アセトニトリルはアクリロニトリル合成の副産物として作られていて、このためアクリロニトリルの生産がストップすると、そのあおりでアセトニトリルまで生産が止まるのだとか。世界同時不況で、合成樹脂原料であるアクリロニトリル需要が低下しているためのようで、こういうところに影響が及んでくるものなのですね。

 合成実験の溶媒としてはほかで代用も利くでしょうが、HPLCの移動層としては他の溶媒ではデータがとれないものも多いでしょうから、これはなかなかピンチかもしれません。そういう意味では、生物系なんかの方が影響が大きいかもしれないですね。

 しかしこのまま不況が続くようなら、他の溶媒や試薬にも影響が及んでくるかもしれません。例えばアセトンはクメン法によるフェノール生産の副産物として造られているので、フェノール需要が下がればあるいはこちらも……ということにもなりかねません。アセトンが切れると、合成屋としては相当痛いことになりそうですが、大丈夫なのでしょうか。あるいは溶媒蒸留再使用システムなんてものが、今後は必要になってくるのかもしれないですね。

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