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 2008年 第41号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: おしらせ(11/12)


 ☆今週の反応・試薬

 ・ホウ酸MIDAエステル

 アリール及びビニルホウ酸は鈴木・宮浦反応の基質として常用される。しかしその反応性を抑える保護基は、これまで存在しなかった。N-メチルイミノジ酢酸(MIDA)はこれらホウ酸化合物と付加体を形成し、ホウ素をsp3混成に保つ。これによってパラジウムへのトランスメタル化が抑制され、カップリングを起こさないようとどめておくことができる。

 MIDAは水酸化ナトリウム・重曹水などのアルカリによって簡単に切断可能だが、強酸性条件やHWE反応、還元的アルキル化などの条件に対しては全く安定である。このため多段階の合成に用いることが可能で、多様な化合物を少ないステップ数で合成することが可能になる。詳細はこちらなどを。


 ☆注目の論文

・反応

A Surprising Mechanistic “Switch” in Lewis Acid Activation: A Bifunctional, Asymmetric Approach to α-Hydroxy Acid Derivatives
Ciby J. Abraham, Daniel H. Paull, Tefsit Bekele, Michael T. Scerba, Travis Dudding and Thomas Lectka

J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja806818a

 o-クロラニルとシンコナアルカロイドを使ってカルボン酸のα位を酸化し、水酸基を導入する反応……ですが、どこからこの形式が出てきたんだろうと思うような反応。なんかダイオキシンがいっぱいできそうで気色の悪い条件ではありますが。

Synthesis of Diarylamines Catalyzed by Iron Salts
Arkaitz Correa, Monica Carril, Carsten Bolm
Chem. Eur. J. ASAP DOI: 10.1002/chem.200802018

 アセトアニリドとヨウ化アリールの鉄触媒によるN-Arカップリング。鉄もパラジウムや銅に負けてません。立体障害があると急速に収率が落ちるようなのが残念ですが。

Organocatalyzed Highly Enantioselective Michael Additions of Malonates to Enones by Using Novel Primary-Secondary Diamine Catalysts
Ying-Quan Yang, Gang Zhao
Chem. Eur. J. ASAP DOI: 10.1002/chem.200801749

 キラルジアミンを有機分子触媒として、マロン酸エステルがエノンへ不斉1,4-付加する。不斉が出しにくいとされる1,4-付加で、収率・eeとも完璧に近い数字がでている。触媒はアミノ酸由来のごく簡単な物。本当か?というくらいパーフェクトな反応。

・全合成

Total Syntheses of (±)-Massadine and Massadine Chloride
Shun Su, Ian B. Seiple, Ian S. Young and Phil S. Baran
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8074852

 グアニジン2つを持った海洋由来アルカロイド類の全合成。保護基少なめで工程数は短い、一度に複数の化合物をやっつける、収率は低いまま、傍目には何が起こってるかわからない(笑)という相変わらずのBaran流。

Biomimetic Asymmetric Total Synthesis of (?)-Laurefucin via an Organoselenium-Mediated Intramolecular Hydroxyetherification
Byungsook Kim, Miseon Lee, Mi Jung Kim, Hyunjoo Lee, Sanghee Kim, Deukjoon Kim, Minseob Koh, Seung Bum Park and Kye Jung Shin
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja806304s

 8員環・5員環を持つ海洋ポリエーテルLaurefucinの全合成。生合成仮説に基づく合成ですが、なるほど感があります。

A Synthesis of Tamiflu by Using a Barium-Catalyzed Asymmetric Diels-Alder-Type Reaction
Kenzo Yamatsugu, Liang Yin, Shin Kamijo, Yasuaki Kimura, Motomu Kanai, Masakatsu Shibasaki
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804777

 タミフルの新たな合成ルート。12段階で完成していますが、さらに磨きをかける予定の予定です。

・その他

Enantioselective Preparation of a Stable Boronate Complex Stereogenic Only at Boron
Peter F. Kaiser, Jonathan M. White and Craig A. Hutton
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8044629

 初めての、ホウ素原子上「だけ」に不斉点を持つ化合物の不斉合成。新しい不斉反応試薬の足がかりになるか?

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 α-ピネンを蒸留していたところ、終わり頃に突然爆発が起こった。重いスターラーが実験室の端まで吹き飛ぶほどの威力だった。

 これは友人から聞いた話です。ピネンは不斉反応などにもよく使われますが、ひずみが大きいため高いエネルギーを内包しています。蒸留の終わり頃ということですので、あるいは何らかの酸化物などが残って濃縮されていたのかもしれません。あまり危険だという印象のない化合物でも、気をつけなければならないものがあるという一例です。


 ☆館長の本棚

 遺伝子が処方する脳と身体のビタミン―東京大学超人気講義録file3 (石浦章一著 羊土社 1680円)

 東京大学・石浦章一教授の講義中継シリーズ第3弾。同じシリーズが3冊も出るのは当然面白いからで、前2作も幾度か有機化学美術館のネタ本として使わせていただきました。今回も期待に違わず、一体どこからかき集めてくるんだろうと思うような話が一杯です。暴力は遺伝なのか、抗うつ剤の裏表、果ては同性愛に生物学的な意味はあるのかなどなど、広い範囲にわたって興味深い話題が載っています。元は専門の学生ではなく、教養学部の1年生を相手にした講義をまとめたものですので、わかりやすさも抜群。確かにこれを東大生だけに聞かせておくのはもったいない。東大にはさすが大した先生がいるもんだ、と思ってしまう一冊です。


 ☆編集後記

 先週ちらっと書きました、化合物を作る落ち物パズルですが、すでに存在するとの情報をいただきました。こちらになります。やりこむといろいろ仕掛けがあってなかなか面白いようです。ビジュアル的に今一歩なのが惜しいところですけど。

 さて今回は保護基のトリビア話。筆者がシリルエーテルの保護基を外す条件を検討していた時のこと。その化合物は塩基にやや不安定、しかしそのシリル基は立体障害が大きくなかなか外れないという困った状況でした。で、A先輩に相談してみたところ、「TBAFは塩基性が強いから、酢酸を溶媒に加えてやってみたらどうか。脱保護も速くなった」といいます。で、B上司にその話をしてみたところ「いや、それは逆だ。酢酸を入れると遅くなる。俺は自分で実験したから間違いない」と正反対のことを言われました。経験豊富な両先輩があまりに断言するので、いったいどっちが正しいんだろうかと調べてみたのですが――。

 結果は、両方正解でした。TBDMS基は酢酸を入れると切れるのが遅くなりますが、TBDPS基は速くなるのだそうです。詳しいことは書いてなかったので理由はわかりませんが、こういうのは理屈ではわからんもんだなあと妙に感心した次第です。
(もしかすると記憶違いで、逆だったかもしれません。間違ってたらごめんなさい。)

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