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 2008年 第40号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報:萌える化学(11/9) TCIメール(11/12)


 ☆今週の反応・試薬

 ・続・N-トシルヒドラゾンの反応

 トシルヒドラゾンは根元に求核攻撃を受けると、トルエンスルフィン酸と窒素ガスを放出して分解する。この性質を利用した反応がいくつか報告されている。例えば水素化ホウ素ナトリウムなどの穏和な還元剤で還元すると、

 この反応は高い温度を必要とするWolff-Kishner還元の代用になりうる。穏和な条件で進行するため使いやすい。またケトンとN-トシルヒドラジドを酸性溶液中混合しておき、ナトリウムシアノボロヒドリド(NaBH3CN)で還元すると、ワンポットでケトンが対応するメチレンに変わる。

 またトシルヒドラゾンの窒素をTBS基などで保護しておき、アルキルリチウムを作用させれば同様な反応を経て、「痕跡を残さず」アルカンが得られる。ただしエノール化しやすい基質では問題が起こることもある。

 ※Wittigして水添、というのがよくあるパターンですが、接触還元ができないような場合に覚えておくと便利。


 ☆注目の論文

・反応

Helical Chiral PyridineN-Oxides: A New Family of Asymmetric Catalysts
Norito Takenaka, Robindro Singh Sarangthem, Burjor Captain
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803338

 ヘリセン骨格を持ったピリジン-N-オキシドを不斉触媒として使う反応。発想が力業。

・全合成

Synthesis and Structure Revision of Nakiterpiosin
Shuanhu Gao, Qiaoling Wang and Chuo Chen
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja808110d

 ステロイドを崩したような骨格に2つの塩素・1つの臭素を持った海洋天然物の全合成。ひとつひとつの反応・試薬に工夫があり、丁寧に磨き上げられた合成の印象。3ページながら見どころが多いです。

Total Synthesis of (?)-Pseudolaric Acid B
Barry M. Trost, Jerome Waser and Arndt Meyer
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja806724x

 ロジウム触媒を用いた[5+2]付加環化を鍵段階としつつ、様々に工夫が凝らされた全合成。世の中には知らない条件の反応がいっぱいあるなあと思わされてしまいます。勉強になります。

Construction of the Adamantane Core of Plukenetione-Type Polycyclic Polyprenylated Acylphloroglucinols
Ryukichi Takagi, Yuta Inoue and Katsuo Ohkata
J. Org. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jo801595y

アダマンタン骨格を持った天然物の骨格合成。後はプレニル基を入れるだけなのですが、こういうのはここからが意外と難しいのかも。

・医薬

Discovery of Boronic Acids as Novel and Potent Inhibitors of Fatty Acid Amide Hydrolase
Anna Minkkila?, Susanna M. Saario, Heikki Ka?sna?nen, Jukka Leppa?nen, Antti Poso and Tapio Nevalainen
J. Med. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jm801051t

 ホウ酸を骨格に持ったFAAH阻害剤。これ自体は大した論文でもないと思うのですが(うわ)、以前考えていたことに近かったもので。プロテアーゼ阻害剤としてホウ酸化合物を使うのはin vitroではうまくいっても、vivoでは体内動態に問題が出るのかな……と思っていたんですが、最近Vercadeも上市されたし、PT-100というのもPIIくらいに行っているようです。ホウ素に特別毒性があるという話も聞かないし、やれることはあるのかなという気もするのですけど。

・その他

Probing the Reactivity of a Stable Silene Using Muonium
Brett M. McCollum, Takashi Abe, Jean-Claude Brodovitch, Jason A. C. Clyburne, Takeaki Iwamoto, Mitsuo Kira, Paul W. Percival, Robert West
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804458

 シリレン(Si=C)結合の反応性を調べる論文なのですが……なんと持ち出してきたのがミューオニウム、つまり陽子の代わりにミューオンという素粒子を持つ「エキゾチック原子」。有機ミューオニウム化合物ってのは初めて見たなあ……。論文の詳しい内容は正直わからないですが、驚愕しました。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 鉱油に浸けられた古い金属カリウム片を取り出そうとナイフで突き刺したら爆発し、重傷を負った。

 カリウムは油の中でも徐々に酸化し、水酸化カリウムとカリウム超酸化物(KO2)を生じます。これは加熱・衝撃などの刺激によって爆発を起こします。古くなったものは黄色からオレンジに変色していますので、こうなったものは注意深く処分しましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.125より)


 ☆館長の本棚

H5N1型ウイルス襲来―新型インフルエンザから家族を守れ! (角川SSC新書 12) 岡田晴恵著 756円
新型インフルエンザ―世界がふるえる日 (岩波新書) 山本太郎著 735円

 新型インフルエンザ関係で2冊。資料として読んだものですが、改めて新型インフルエンザってのはシャレにならん病気であるな、と思わされました。前者は一般向けに家庭でできる対策などをまとめたもの、後者は比較的専門的な視点から新型インフルエンザの世界にもたらす影響を説いたものですが、どちらも読みやすく、充実した内容です。特に後者に出てくる1918年のスペイン風邪、そして近未来の予想の描写は真に迫っており、読む者を慄然とさせる迫力があります。

 筆者は新型インフルエンザ問題こそが他の何よりも――少子化や地球温暖化や、食の安全などよりもさえ、優先されるべき課題だと思っています。何千万か何億か、国内だけでも関東大震災の何倍もの人が死ぬと予想されている災害なのですから。とりあえずこれらの本を一人でも多くの人が読み、危機感を共有していただきたいなと筆者は思うのです。


 ☆編集後記

 少々仕事が立て込んだのと体調が今一歩だったことで、発行が遅れました。お詫びいたします。

 さて、こよなく構造式を愛する筆者としては全く想像がつかないのですが、世の中の人というのはどうも構造式が嫌いらしいのですね。「亀の甲」を見ると寒気がするという人が大半のようで、これは良くないことであると思います。化学嫌いをなくすための一歩として、やはり子供の頃から構造式を好きになってもらうのは有効な手だてでしょう。化学好きが増えてくれれば筆者にとってマーケットが広がるということですし(笑)。

 で、子供が構造式になじむためには何があればよいか。ほんとは分子模型をおもちゃがわりに遊べれば一番よいと思うのですが、ご存知の通り非常に高価で、あまり子供に遊ばせるには向かない代物です。で、例えば炭素とか酸素とかのマークを描き込んだ六角形のタイルみたいなものをたくさん並べて、大きな分子を作った人が勝ちというゲームみたいなのはできないか。タントリックスというパズルがそれに近いですけど、何かうまいルールでゲーム化できないものか。

 ゲームというならいっそコンピュータゲームにならないか。上から降ってくる原子団の断片をうまくつないで、結合の余りがない分子を作ったらその分子が消える。大きな分子を作ると高得点――ってこれはテトリスとパズルボブルの合いの子みたいな感じでしょうか。

 と、そのへんをドライブして紅葉の野山を眺めつつ、頭の中ではぼんやりとそんなことを考えていたわけです。こういうのは「知育おもちゃ」とか「脳を鍛える」とか何とかつけると結構売れそうな気もしますが、何かいいアイディアはないもんでしょうかね。

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