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 2008年 第39号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬

 ・Shapiro反応

 トシルヒドラゾンに対して2当量の強塩基(LDA, MeLiなど)を作用させると、トルエンスルフィン酸と窒素の脱離を伴い、ビニルリチウムを生ずる反応。水でクエンチすればオレフィンが得られ(下図E=H)、適当な求核剤を作用させれば炭素-炭素結合が作れるため、有用性が高い。

 ※ややこしい過程のようですが、確実性の高い反応です。また、この反応はいろいろと応用があります。下記もその例。


 ☆注目の論文

・反応 

Lewis Acid Catalyst Free Electrophilic Alkylation of Silicon-Capped π-Donors in 1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol
Maxim O. Ratnikov, Vasily V. Tumanov, William A. Smit
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803927

 ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶媒中で、向山アルドールや櫻井-細見反応がルイス酸なしで進行する。HFIPは強い水素結合供与体で、アニオンに強く溶媒和するなど特殊な溶媒である、とのこと。さてどう応用が利くか。

Highly Chemoselective Reductive Amination of Carbonyl Compounds Promoted by InCl3/Et3SiH/MeOH System
On-Yi Lee, Ka-Lun Law, Chun-Yu Ho, and Dan Yang
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo8016082

 InCl3・Et3SiH・MeOHの系で、カルボニル化合物とアミンによる還元的アミノ化が進行する。官能基許容性が広く、水分があっても問題がない。またシアノボロヒドリドのように毒性の問題もない。ケトンと二級アミンでも高収率で進行。覚えておく価値ありかも。

Kinetic Resolution of Racemic Carboxylic Acids Using Achiral Alcohols by the Promotion of Benzoic Anhydrides and Tetramisole Derivatives: Production of Chiral Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs and Their Esters (p NA)
Isamu Shiina, Kenya Nakata, Yu-suke Onda
Eur. J. Org. Chem. EarlyView DOI: 10.1002/ejoc.200800942

 α位に不斉点を持つラセミ体のカルボン酸と、かさ高いアルコールを不斉有機分子触媒存在下縮合させ、動的光学分割を行う。安息香酸無水物が縮合剤の役割を果たしている。

・その他

“Pure by NMR”?
Timothy D. W. Claridge, Stephen G. Davies, Mario E. C. Polywka, Paul M. Roberts, Angela J. Russell, Edward D. Savory, and Andrew D. Smith
Org. Lett. ASAP DOI:10.1021/ol802211p

メルマガ読者・SZさんのご推薦。
タイトルにつられて読んでみた論文が面白かったので、紹介します。1H NMRスペクトルの面積比によってジアステレオマー比を決定する方法論の論文です。
あるジアステレオマーの存在比が100%に近い場合に、メジャーな成分の親ピークでなく、1%程度存在する13Cによって生じる、サテライトピーク(親ピークの179分の1の大きさ)を、マイナーな成分のピーク面積と比較するという手法です。1HNMRスペクトルを測定するだけで、99.8%deまで、精度良くジアステレオマー比を決定することに成功しています。

 なるほど。しかしこういうのもOrg. Lett. に載るわけですから、論文のネタはいろいろ転がっているのだなと思います。研究室でやっているちょっと便利な方法、なんてのがあったら論文にまとめて投稿してみるのも手ですね。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)が衣服に付着したまま放置していたら、自然発火した。

 NaClO2はアルデヒドのカルボン酸への酸化(Pinnick酸化またはKlaus酸化)に使われる穏和な酸化剤ですが、こうした意外な危険性もあります。どんなものであれ、基本的に酸化剤は危険物と心得て扱うべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.262より)


 ☆館長の本棚

 元素周期 萌えて覚える化学の基本 (PHP研究所 1995円)

 化学方面以外でもかなり話題になっているこの本。ついに元素の世界にまで萌えの波が押し寄せてきたか、と驚きを隠せません。そしてもっと恐ろしいことに、この本かなり売れてるようです(アマゾンで全書籍中5位まで上昇した模様)。ちょっと筆者はこれをモテレジに並ぶ勇気がなく、立ち読みだけしかしておりません。まあ我々化学者としては、「えー、この元素がこのキャラかよ」「フッ素だからフライパンとか安易すぎだろ」とツッコミを入れながら眺めるのが正しい楽しみ方ではと思われます。


 ☆編集後記

 日本シリーズはこれを書いている時点で3勝3敗の互角で最終戦突入と大変盛り上がっておりますが、すげえなと思ったのはゲストコメンテ−ターで来ていた工藤公康投手の解説っぷりです。きめ細かな観察と鋭い心理の読みで、言うことがズバズバ当たり、他のレギュラー解説者がアホに見えるほどでした(ま、しゃべりすぎでうるさいという意見もあったようですが)。あれだけものをよく見て、考えに考えて野球をやっているからこそ、27年間も現役の第一線でやっていられるのだなと感心した次第です。たぶんあれなら解説者としてコーチとして、引退後も引っ張りだこであることでしょう。

 同じく長年現役で活躍した野村克也監督の著書「野村ノート」も、やはり似たような意味で感心させられた本です。「外角低め(氏はこれを「原点」と呼ぶ)にストレートを精度よく投げられるかどうかで、その投手の能力・調子を判断する」「配球は常にワンペアで考える。緩急、内外、高低を使い分けて打者の裏をかく」というような記述を読むと、もう野球の見方そのものが変わってきてしまいます。門外漢でさえ世界が変わって見えてしまう、こういうのが優れた読書体験なのだなと思いました。

 両者に共通するのは、誰の目にも明確な判断基準を持ち、それを第三者にもわかるようきちんとした言葉に置き換えて伝える能力があることかと思います。やはりこういうのはあいまいな「概念」ではなく、明解な「言葉」にしないと思考が深まらないものだと思いますし(その意味で、Sharplessは他人の反応に勝手に「クリックケミストリー」という名前をつけて宣伝しただけだという人がいますが、あの反応の使い道を明確にし、きちんと言葉にして提示したことそのものが大きな功績だと筆者は思っています)。

 で、結局何が言いたいかといいますと、きちんと言葉にして提示するということを仕事にしておきながら、自分は全く工藤・野村両氏の足元にも及んでいないなあ、という反省であったりします。一歩でも近づくべく、せいせい精進したいと思います。

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