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 2008年第33号 もくじ

編集長のパソコンがアクシデントで入院中ですので、引き続き簡略版でお送りいたします。

1.有機化学の言葉 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆有機化学のことば

 ・置換基の略称

 有機化学分野では、メチル基を「Me」、エチル基を「Et」というように、置換基を2文字で元素記号風に(?)省略して表示する習慣があります。確かに慣れると便利で、わかりやすくもあります。「Ac」はアクチニウム、「Pr」はプラセオジムとかぶっていますが、まあこれらの元素は有機化学にはほとんど登場しないので問題はあまり起こらないようです。

 分野によって略し方が違うこともあるようです。筆者は学部4年生のときにペプチド合成をやっていたのですが、ペプチド屋はベンジル基を「Bzl」と略する習慣があるので、初めて「Bn」という略号を見たときはカルチャーショックでした(笑)。今にして思うと、アミノ酸の略号はGly, Ser,Valなど3文字ですので、これに合わせた略し方だったのでしょう。ただし、最近ではペプチド屋さんも「Bn」を使うようになってきているようです。
かつてはトシル基(p-トルエンスルホニル基)もTos、スクシンイミジル基も-ONsuと表記していましたが、これらもそれぞれTs, OSuに統一されつつあるようです。まあ通じるなら短い方がいいわけで、短縮化は自然の傾向なのでしょう。

 スルホニル基系列ではトシルの他、メタンスルホニル=メシル(Ms)、トリフルオロメタンスルホニル=トリフル(Tf)などは有名ですが、ノシル(Ns)・ノナフル(Nf)・ベシル(Bs)・カムシル・トリシル、トリミルといった略語もあるのをご存知でしょうか?それぞれ2-ニトロベンゼンスルホニル、ノナフルオロブタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、10-カンファースルホニル、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホニルの略です。まあ後半の方はめったに使われない略語ですが。

 一文字で表される略語もあり、ベンジルオキシカルボニル基を指す「Z基」が有名でしょう。しかし「benzyloxycarbonyl」または「carbobenzoxy」なのに、なんでZ基になったのだろうと思っていたのですが、どうも開発者のL.Zervasがちゃっかり自分の頭文字をつけてしまったのというのが真相のようです。

 他に一文字といえば、「フェニル」を「Ph」と書く代わりに「φ」と書く人がいて、これは市民権を得ています。TBS基を「Σ」と書いている論文も見たことがありますが、これはあまり流行らなかったようです。どこかの教授が講演でチオフェンを「θ」と書いてましたが、これは聴衆の日本人には伝わらず、皆「?」という表情で聞いていたのを思い出します。

ちなみに中国語ではフェニル基が「苯基」、ベンジル基が「苄基」と、それぞれちゃんと漢字一文字が割り当てられています(文字化けしてたらすみません)。「オキシム」「グアニジン」などという漢字もあるようですから、さすがは漢字の故郷と思ってしまいます。ヘテロ環などもそれぞれの漢字があり、これは覚えるだけで大変そうですが。このあたり中国語版Wikipediaを眺めるとなかなか面白いです。


 ☆注目の論文

・全合成

It All Began with an Error: The Nomofungin/Communesin Story
Peter Siengalewicz, Tanja Gaich, Johann Mulzer
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801735

 NMR、生合成過程の考察、モデル実験などを通して、ひとつの化合物の構造が訂正され、全合成されるまでの経過を追った話。ややこしいけど、腰を据えて読む価値あり。

Total Syntheses of (+)- and (−)-Peribysin E
Angie R. Angeles, Stephen P. Waters, and Samuel J. Danishefsky
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8048207

 環縮小転位反応を鍵段階とした全合成。小品ですがエレガント。

・反応

A Highly Reactive and Enantioselective Bifunctional Organocatalyst for the Methanolytic Desymmetrization of Cyclic Anhydrides: Prevention of Catalyst Aggregation
Sang Ho Oh, Ho Sik Rho, Ji Woong Lee, Je Eun Lee, Sung Hoon Youk, Jik Chin, Choong Eui Song
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 7872 (2008) DOI: 10.1002/anie.200801636

 環状カルボン酸無水物を、キニーネ由来の有機不斉触媒存在下でエナンチオ選択的に開環エステル化する。触媒さえ作れば実用的な反応で使いやすそう。

Tetrazine Ligation: Fast Bioconjugation Based on Inverse-Electron-Demand Diels−Alder Reactivity
Melissa L. Blackman, Maksim Royzen, and Joseph M. Fox
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8053805

 トランスシクロオクテンとテトラジン誘導体の付加環化反応。極めて高速で進行し、水やタンパク質の存在下でも邪魔されない。副成物は窒素のみで、金属触媒など必要としないので生体適合性が高い。新しいクリック反応の資格を満たす新反応。

・超分子

An Ion-Pair Template for Rotaxane Formation and its Exploitation in an Orthogonal Interaction Anion-Switchable Molecular Shuttle
Michael J. Barrell, David A. Leigh, Paul J. Lusby, Alexandra M. Z. Slawin
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802745

 カウンターアニオンを変えることで、ロタキサンのシャトルを制御する。分子デザインが合理的でなるほど感があります。

Two-Component Liquid Crystals as Chiral Reaction Media: Highly Enantioselective Photodimerization of an Anthracene Derivative Driven by the Ordered Microenvironment (p NA)
Yasuhiro Ishida, Yukiko Kai, Syun-ya Kato, Aya Misawa, Sayaka Amano, Yuki Matsuoka, Kazuhiko Saigo
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803242

 アントラセンカルボン酸と、キラルなアミノアルコール誘導体から成る液晶に対する光反応で、不斉なアントラセン二量体を得た。液晶内でのこうした反応は例が少ないとのこと。


 ☆安全な実験のために

 石油中に保存されていた古い金属カリウムを取り出し、ナイフで切断しようとしたら爆発した。

 カリウムは古くなると、表面に超酸化物を含む黄〜オレンジ色の被膜を作り、ここに加熱したり衝撃を与えたりすると激しく爆発します。カリウム自体は不活性雰囲気下、イソプロピルアルコールなどで慎重に処理してつぶせますが、あまりに古い場合、量が多い場合は業者に処理を任せた方が無難と思われま す。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p124より)


 ☆館長の本棚

 生命の万能素材―「アミノ酸」と「タンパク質」 (NEWTONムック) (ニュートンプレス 2415円)

 研究者向けに作ってある本ではないですが、Newtonらしいオールカラーの美しい本です。DNA→RNA→タンパク質の流れ、筋肉の伸び縮みの仕組み、イオンチャンネルの構造、オーダーメイド医療との関わり、田中耕一氏のインタビューなどあって、「へー知らんかった」という話題もかなりあります。こういうよくできた本を作ってみたいものだ、と思います。


 ☆編集後記

 一応パソコンのリストア作業は先ほど終了し、何事もなかったかのように以前の状態に戻って使用できております。やはり環境の整った普段のマシンは扱いやすくてよいなと。何度かHDが吹っ飛んで苦労してきた身としては、こうして完璧に元に戻るというのは大変感動的です。バックアップはしておくものですね。というわけでみなさんもこんなものでも買って、きちんと備えておいてはいかがでしょうか!ってこんなのに浅ましくリンク張っても誰も買いませんかそうですか。
 まあ非常にセコい話じゃありますが、もしも何かアマゾンで買い物をする際には、カンパと思ってこのメルマガ経由で入っていただけると大変ありがたいと思う次第です。

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