〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第3号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4..周辺領域のことば 5.館長の本棚 6.編集後記

・有機化学美術館更新情報:分館にチョコレート・ケミストリー。まあネタみたいなエントリです。


 ☆今週の反応・試薬 〜 改良光延反応

 DEADとトリフェニルホスフィンを用いる光延反応は、ヒドロキシ基を活性化して置換反応を行う有名な反応であり、数多くの応用例がある。

(Wikipedia 光延反応の項目より改変して使用)

 この時H-Nuの酸性度が低く、pKaが10以下の場合に上記反応が起こる(カルボン酸、フェノールなど)。10〜13では収率が低下し、13以上では反応しない。
が、伊東と角田は試薬に検討を加え、アゾジカルボン酸アミドを用いることによってpKaが11以上の化合物にも光延反応が適用できることを見出した。この場合アゾ基の電子密度が上がるため、ホスフィンとしてはより求核性の高いトリブチルホスフィンと組み合わせるとよい結果を与える。

 またホスホラン系の試薬であるCMMP,CMBPは、さらに酸性度の低い求核剤とも反応し、場合によりインドールのN-アルキル化なども可能である。

 ただしCMMPはWittig試薬でもあるため、ケトンやアルデヒドを含む基質には使用できない。また酸化に弱いため、不活性ガス気流下で扱い、試薬のアンプルは1回で使い切る方がよい。

 ※ADDP-PBu3系は、非常に活性の高いアルコール(メトキシベンジルアルコールなど)では逆にうまくいかないケースがあるようです。またDEADのカスはTLCで見えず、ものと重なったときカラムで除きにくくてうっとうしいのですが、ADDPのカスはTHFに溶けずに結晶で沈殿してくるので、ろ過だけで除けるメリットがあります。結構これが実用的にはデカいです。

参考リンク:TCIメール 寄稿論文(PDFファイル248KB)
東京化成プロダクトノート(PDFファイル214KB)


 ☆注目の論文

 ・有機金属化学

 Rh(I)-Catalyzed Arylation of Heterocycles via C-H Bond Activation: expanded Scope through Mechanistic Insight
J. Am. Chem. Soc.ASAP DOI:10.1021/ja0748985

 ロジウムを使ったC-H結合活性化で、アゾールの2位をアリール化する。リガンドのデザインの出どころが面白い。

 Copper-Catalyzed Arylation and Alkenylation of Polyfluoroarene C-H Bonds
J. Am. Chem. Soc. 130, 1128 (2007) DOI:10.1021/ja077862l

 こちらは銅を使ったC-H結合活性化。

 Palladium-Catalyzed Direct Arylation of (Hetero)Arenes with Aryl Boronic acids
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 1473 (2008) DOI:10.1002/anie.200704619

 負けずにパラジウムでもC-H結合活性化。80年代はPdカップリング、90年代はメタセシス、そして00年代はC-H結合活性化が有機金属のトレンドということになるのでしょうか。

 Iron-Catalyzed Asymmetric Olefin cis-Dihdroxylation with 97% Enantiometric Excess
Angew. Chem. Int. Ed. early view DOI:10.1002/anie.200705061

 鉄触媒を使ったオレフィンの不斉ジヒドロキシ化(AD)。そんなことができるのか!という感じがあります。もはやオスミウムは古いのか?

 ・反応

 A Micellar Iodide-Catalyzed Synthesis of Unprotected Aziridines from Styrenes and Ammonia
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 1473 (2008) DOI:10.1002/anie.200704772

 スチレン誘導体を、アンモニア・NaOCl・触媒量のI-でアリールアジリジンにする。シンプルにして使いでのありそうな反応。

 ・全合成

 A Second-Generation Total Synthesis of (+)-Phorboxazole A
J. Org.Chem. 73, 1192 (2008) DOI:10.1021/jo7018152
 Synthesis and Biological Evaluation of Phorboxazole Congeners Leading to the Discovery and Preparative-Scale Synthesis of (+)-Chlorophorboxazole A Possessing Picomolar Human Solid Tumor Cell Growth Inhibitory Activity
bid 73, 1201(2008) DOI::10.1021/jo701816h

 A. B. Smith IIIらによるPhorboxazole Aの全合成及び誘導体合成2連報。末端のBrをClに変えた誘導体が元よりも10倍程度強いことが示された。しかしこのクラスの天然物をかなりの量で創って、誘導体まで作るってのは相当にしんどいだろうなと。

 ・分析

 Direct NMR evidence for Ca2+ ion binding to G-quartets
Chem. Comm. 2008, 682 DOI:10.1039/b714803h

  43Ca-NMRとGaussianを用いた、Ca2+イオンによるGカルテット構造の解析。
43Ca-NMRスペクトルなんて初めてみます。Ca-NMRの標準物質は、塩化カルシウムです。探してみると、世の中にはXe-NMRなんてのもあるよ うです(Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 391.)。こういった変り種の分析には唸らされます。
(情報提供:ジェイクさん)

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回はエーテルの過酸化物生成について。

 20年ほど前に合成されたイソプロピルエーテルのビンが発見され、中に結晶ができていた。町外れまで運び、石を投げたところ大爆発が起こった。

 エーテル類は空気によりラジカル的に酸化され、危険な過酸化物を形成します。蒸留したものでも、THFは3日後から、ジエチルエーテルでは8日後から過酸化物の生成が認められたそうです。IPEは特に過酸化物を作りやすいので早めに廃棄すること、エーテル類の蒸留では絶対に蒸発乾固させないことなどが重要です。過酸化物を検出するヨウ化カリウムデンプン紙なども市販されています。


(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.59より)


 ☆周辺領域のことば

 有機化学周辺の学問領域で、話題となっている言葉を取り上げていきます。

 ドラッグライクネス(drug-likeness)……医薬品となる化合物は、標的タンパクと結合するという以外にも様々な要素が必要となる。体内分子と反応してしまう官能基を持たないこと、消化・代謝作用であまりに速く分解されてしまわないこと、生体膜を通過できること、などなどである。こうした条件を満たす、「薬になりそうな化合物」を「ドラッグライクな化合物」と称する。
これらは「化合物の『顔』が悪い」という言い回しに代表される、研究者の長年のカンによって判別されてきた。しかし近年、水-オクタノール間の分配係数(logP)や、Lipinskiの「ルール・オブ・ファイブ」など、定量的にドラッグライクネスを判定する試みが発展し、一定の成果を挙げている。


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

 レバレッジ時間術―ノーリスク・ハイリターンの成功原則(本田直之著 幻冬舎新書 \756)

 ビジネス書です。個人的に、これから時間の使い方が一番重要になると思い、勉強のため購入しました。月単位でゴールを設定して逆算でやるべきことを詰めること、自己投資などに必要な時間は「天引き」して予め確保してしまうことといったことから、昼寝を15分取ることで効率が上がるといった細かいことまでぎっしり必要な知識が詰まっています。
 有機化学の実験も時間との戦いです。個人としてのスピードアップ、社内プロジェクトの効率化など、化学者にも応用できる面が多いのではないかと思います。


 ☆編集後記

 ホームページは10年近くやってますが、何かミスをやってないかいまだにアップロードのたび非常に恐ろしいです。ブログのコメントとかメールが来るたび、何か間違いの指摘じゃないか、ひどいことを言われてるんじゃないかとドキドキしたりもします。ま、実際ずいぶん間違いをやらかしてきましたし。このメルマガの「注目の論文」にしろ、「こいつはこんなカスみたいなペーパーを面白がってるのか」と思われていそうで、書くたびに悩みます。
 それでもあえて人前に自分の考えをさらすことでセンスが磨かれる部分もあり、情報も集まってきて、喜んでくれる人もいるようなので、どうにかこうにか続けているような次第です。

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