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 2008年第29号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:分館 お知らせとお詫び
                 本館 三枚羽根分子・トリプチセンの世界
             本館英語版 Transformations of Fullerene


 ☆今週の反応・試薬 〜 N-ヒドロキシスクシンイミド

 古くから、活性エステル法によるアミド結合生成に常用される試薬。HOSuまたはNHSと略されることが多い。融点95度の固体で、水溶液は弱酸性を示す。


HOSu

 カルボン酸・HOSu・DCCまたはWSCDを溶媒中撹拌すると、OSu活性エステルが生じる。この活性エステルはアミンと穏和な条件下反応し、アミドを与える。

 同様な目的にHOBtも用いられる。HOSuはHOBtに比べて反応性は劣るが、反応後に副生成物のHOSuが水洗だけで除ける(HOBtは重曹水洗浄が必要)。また中間体のカルボン酸OSu活性エステルが安定であるため、取り出して保存可能であり、これをアミンと反応させるだけで手軽にアミドが得られる利点がある。このため、タンパク質などを修飾する試薬として、OSuエステル化合物が市販試薬として販売されている。

 ※HOBtのエステルは不安定で保存が利かないため、中間体のまま保存したい時にこちらが用いられます。生化学の分野で広く応用されますが、HOBtにもそう反応性が劣るわけではないので、こちらも使われても悪くないように思います。


 ☆注目の論文

・全合成

Total Synthesis of (+)-Cortistatin A
K. C. Nicolaou, Ya-Ping Sun, Xiao-Shui Peng, Damien Polet, David Y.-K. Chen
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803550

 注目の天然物コルチスタチンの全合成。BC環の形成がきれいに決まっています。こちらでも取り上げてますね。

Synthetic Studies on Et-743. Assembly of the Pentacyclic Core and a Formal Total Synthesis
Dan Fishlock and Robert M. Williams
J. Org. Chem. ASAP DOI:10.1021/jo801159k

 エクテナサイジン743の形式全合成、福山先生の中間体にぶつけて終了。Pictet-Spenglerはもうちょいどうにかできないのかなあ、と外野席は勝手なことを言ってしまいますが。

Facile Synthesis of the Trans-Fused Azabicyclo[3.3.0]octane Core of the Palau’amines and the Tricyclic Core of the Axinellamines from a Common Intermediate
Manuel A. Zancanella and Daniel Romo
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol801289b

 これも難物の海洋アルカロイドpalau'amineとaxinellamineの骨格合成。5員環同士がトランスに縮環した骨格は難しいのですが、うまく攻略しています。しかし何で天然にこんな変な構造があるのだろう。

・反応

Iron-Catalyzed C-C Bond Formation by Direct Functionalization of C-H Bonds Adjacent to Heteroatoms
Zhiping Li, Rong Yu, Haijun Li
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802215

 ヘテロ原子も隣のC-H結合を活性化し、β-ジケトンと酸化的にカップリング。触媒はFe2(CO)9。鉄の反応だけでも追い切れないほど出てきますね。

・超分子

Single- and Double-Stranded Helical Polymers: Synthesis, Structures, and Functions
Eiji Yashima, Katsuhiro Maeda, and Yoshio Furusho
Acc. Chem. Res ASAP DOI:10.1021/ar800091w

 らせんの巨匠・八島先生の総説。HPといい、図を眺めているだけで楽しいです。

・その他

Transient FTY720 treatment promotes immune-mediated clearance of a chronic viral infection

Nature 454, 894 (2008) DOI::10.1038/nature07199

 免疫抑制剤であるFTY720を投与することで、なぜか慢性ウィルスの感染が防げるかもという話。これだから人体は奥が深い。

Fullerenes from aromatic precursors by surface-catalysed cyclodehydrogenation

Gonzalo Otero, Giulio Biddau, Carlos Sanchez-Sanchez, Renaud Caillard, Maria F. Lopez, Celia Roger, F. Javier Palomares, Noemi Cabello, Miguel A. Basanta, Jose Ortega, Javier Mendez, Antonio M. Echavarren, Ruben Perez<, Berta Gomez-Lor,Jose A. Martin-Gago
Nature 454, 865 (2008) DOI:10.1038/nature07158

 以前「フラーレンの全合成」で取り上げた、下のような化合物から一気にフラーレンを合成する反応を改良。以前のFVP法では0.1%程度の収率であったものを、ほぼ100%にすることに成功。白金ナノ粒子を用い、その表面で反応を行うのが鍵。この方法を使えばいろいろなフラーレンがデザインして合成できるかもしれず、画期的かも。

A Distorted Tetrahedral Metal Oxide Cluster inside an Icosahedral Carbon Cage. Synthesis, Isolation, and Structural Characterization of Sc43-O)2@Ih-C80
Steven Stevenson, Mary A. Mackey, Melissa A. Stuart, J. Paige Phillips, Michael L. Easterling, Christopher J. Chancellor, Marilyn M. Olmstead, and Alan L. Balch
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja803679u

 スカンジウムの正4面体に酸素原子が2つ付いたものが、Ih対称のC80の中にパッケージされた内包フラーレンの合成。なんでこれができるのか、不思議で仕方がないです。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 古い実験書にあった手順に従い、スルフィドをアセトン中過酸化水素で酸化し、減圧下90度で濃縮していたところ爆発が起きた。

 過酸化水素は安価で比較的安全な酸化剤として常用されますが、アセトンなどケトン系の溶媒を用いると爆発性の過酸化物を作り、危険です。また濃縮すると、少量の無機塩・有機物の影響で爆発を起こします。また分解せずにエーテル抽出などを行うと有機相に来て、濃縮した際に爆発などのケースもあります。しっかりと分解することが肝心です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p95より)


 ☆館長の本棚

 「脳」整理法 茂木健一郎 ちくま新書 735円

 タイトルだけ見ると生活技術的なビジネス本かと思ってしまいますが、結構哲学的な内容です。「偶有性」とどう付き合うか、不確実性を楽しむ方法など、かなり難解なテーマですがわかりやすい言葉で書かれていてみごとなものです。「セレンディピティ」に出会うには、といったあたりは科学者にとっても参考になるのではないでしょうか。
 スピリチュアル方面の人と対談して批判を受けたりもする茂木氏ですが、なるほどこういう角度から考えているからなのか、と納得する部分もかなりありました。筆者が呼んだ仲では、氏の著作のベストではと思います。

「偶然素敵な恋人に出会う能力と、偉大な科学的発見をする能力は、実は同じである」
苦笑いしてしまうと同時に、売れる本を書く人はこういうフレーズをサラッとかける力があるからなんだなあ、と思ってしまいました。


 ☆編集後記

 筆者はジャーナルを図書館で週1回チェックしています。今は論文はオンライン版で見ることがほとんどで、冊子体はほとんど読まれなくなり、購読を取りやめるところも出ているようです。しかし紙のジャーナルをぱらぱらめくることで、本題とは関係ないけれど面白い事柄、今の実験の問題を解決してくれる反応なんかに出会えたこともずいぶんあったように思えます。電子ジャーナルの利点が大きいのはもちろんなのですが、気軽にめくってタイトルやアブストラクトだけでは気を引かない論文も眺められる冊子体の利点も、まだまだ捨てがたいようにも思っています。

 なお、来週は夏休みとさせていただきます。

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