〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第25号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:本館 The Museum of Organic Chemistry
                 分館 Org. Chem. Museum Int. Ed

  「有機化学美術館」の英語版、順次公開の予定です。乞うご期待。


 ☆今週の反応・試薬 〜 Burgess試薬

 1968年、E.M. Burgessが報告した試薬。下図の構造を持ち、マイルドな条件でアルコールを脱水してオレフィンに変換する。


Burgess reagent

 クロロスルホニルイソシアネート(ClSO2-N=C=O)にメタノール・トリエチルアミンを順次作用させることで合成する。二・三級アルコールと反応させると図のようなメカニズムでsyn脱離を起こし、オレフィンが得られる。転位などを伴わず、穏和な条件で進行するので有用性が高い。

 この他、一級アミド(-CONH2)からニトリルの合成ができる他、各種ヘテロ環の合成例も報告されている。他にも応用例は多い。

※脱水反応はやる機会はあまりないですが、いざとなるといい条件がなくて困ったりします。覚えておく価値のある試薬と思います。

 参考リンク:Burgess Reagent in Organic Synthesis(PDFファイル)
 画像は英語版Wikipediaより


 ☆注目の論文

・全合成

Efficient Synthesis of a Novel Resorcyclide as Anticancer Agent Based on Hsp90 Inhibition
Xiaoguang Lei, Samuel J. Danishefsky
Adv. Synth. Catal. Early View DOI: 10.1002/adsc.200800187

 抗ガン作用を持つラディシコール誘導体を、クリックケミストリーの技術を使って迅速かつ高収率で合成。

Total Synthesis of (±)-2-O-Methylneovibsanin H
Annette P.-J. Chen and Craig M. Williams
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol801117e

 バイオミメティックなテルペンの合成。よくできてます。

・反応

Control of Four Stereocenters in an Organocatalytic Domino Double Michael Reaction: Efficient Synthesis of Multisubstituted Cyclopentanes
Bin Tan, Zugui Shi, Pei Juan Chua, and Guofu Zhong
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol801246m

 Michael付加のコンボで4連続不斉中心を一挙に制御し、5員環を作る。しかしキニーネって本当に何でもできますね。

A Chiral Lewis Acid Strategy for Enantioselective Allylic C-H Oxidation
Dustin J. Covell, M. Christina White
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802106

パラジウム・Cr-Salen錯体・酢酸・ベンゾキノンの組み合わせで、オレフィンのアリル位を不斉アセトキシ化する。どこからこんな凝った条件を引っ張り出してくるんだろうと思いますが、それなりのロジックがやはりあるようです。

Copper-Mediated N-Cyclopropylation of Azoles, Amides, and Sulfonamides by Cyclopropylboronic Acid
Se?bastien Be?nard, Luc Neuville, and Jieping Zhu
Org. Lett. ASAP  DOI: 10.1021/jo801033y

シクロプロピルホウ酸と銅塩によるN-シクロプロピル化。アミドやヘテロ環のNHにサクサクと三角形が刺さるので、製薬会社的にメリットがある反応と思います。

Copper-Mediated C?H Bond Arylation of Arenes with Arylboronic Acids
Ikuya Ban, Tomoko Sudo, Tadashi Taniguchi, and Kenichiro Itami
Org. Lett. ASAP  DOI:10.1021/ol8013717

銅を使ったAr-HとAr'-B(OH)2のクロスカップリング。しかしC-H活性化はごく普通のことになってきてますね。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 市販のニトロメタンに、Naディスパージョンを室温で加えていたら、突然激しい爆発が起こった。

 近年ニトロアルドール反応(Henry反応)は最近注目を集めていますが、ニトロアルカンは容易に爆発を起こすことが知られているため、危険も伴うことを頭に入れるべきでしょう。また低級ニトロアルカンの蒸気を吸い込むことによって、粘膜などを傷めるケースも報告されています。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p214より)


 ☆館長の本棚

 香りの愉しみ、匂いの秘密 (ルカ・トゥリン著 1890円)

 「匂いの帝王」ルカ・トゥリンが自身で書き下ろした一冊。あらゆる匂いをかぎ分ける特殊な才能の持ち主である著者が、香りと分子構造の関係について異様な執念で迫ります。味覚もそうですが、嗅覚の世界も本当にわけがわからんなあと思わせます。文体がウザいと思う方もいるかもしれませんが、毎日実験室の異様な匂いに取り巻かれている有機化学者には興味深く読めると思います。


 ☆編集後記

 動体視力に関わるタンパク質に「ピカチュリン」という名前がつけられたというニュースがありました。以前「POKEMON」という遺伝子が任天堂からの抗議を受けて名前を変えさせられた一件があったはずですが、これは大丈夫なんでしょうか。
まあ何であれ、科学の話が話題になることはよいことであると思います。有機化学分野でも、あざとくない程度にシャレの利いたネーミングはあってもいいと思いますが、どんなもんでしょうか。

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